腐女子の消費行動
2025.07.16 / ホールジャンプ育ちのおじさんでも、秋葉原のアニオタ兄さんでもない。これからのホールの主役は腐女子!PUSHひとつで〝あの2人〟の尊い距離感が脳内で炸裂し、ホールは一瞬にして腐女子の聖域と化す。妄想は合法、供給は過剰。今日もレバブルと共に、腐女子の愛が暴走する!
パチンコ・パチスロが供給してくる、尊すぎる“あの関係”
ジャンプおじさんでもアキバ兄さんでもない、
ホールに棲む腐女子っていったい誰?

腐女子はパチンコホールの新たなターゲット?
パチンコ・パチスロのアニメタイアップって、誰のためにあると思う?
それは80年代ジャンプ黄金期に胸を熱くしたおじさんたちのためでもない。深夜アニメに命を燃やしている秋葉系オタク男子のためでもない。私はあえて言いたい、腐女子のためにこそ、あるのだと。
ホールに今日も響くあのボイス、あのカットイン。原作にはなかった、妙に艶っぽい表情差分。味方同士で睨み合ったり、敵同士なのに妙に距離感が近かったり、あれはそう、誰がどう見ても解釈可能な演出でしょ。あとあれよ、あれ、Wリーチ演出。二人で「もう一度!」だなんて、もうそれはプロポーズだよ。このホールの片隅で私の脳内ではBL妄想が爆発しているのよ。
ジャンプおじさんの心にも刺さっているかも知れない。秋葉系お兄さんの口元も確かに緩んでる。でもそれはただの副産物。本当に彼らを求めているのは、公式からの供給に飢えた腐女子たちなのよ。さあ、今日も推しカプを追いかけて、ハンドル全開よ。ああ、レバブルと共に、私の妄想も激震するのよッ!
…とまあ、テンション高めの文章で書き始めた本稿であるが、本誌のターゲットである読者層にはまったく共感不能な内容であろうことは容易に想像できる。だがしかし、日本全国のホールにもこのような思考回路でパチンコやパチスロを打っている腐女子がいるのも事実だ。
本稿では若者でもない、外国人でもない、あなたのホールが見落としているかも知れない「腐女子」という客層にスポットを当ててみたい。
腐女子って女性オタクのことじゃないの?
「いやいやいやいや、腐女子ってただの女性のオタクのことでしょう?」。 そんな理解は今この時この場で捨て去ってほしい。
「オタク」とは、アニメやゲーム、アイドルなど、何かしらのジャンルに強い愛情を持つ人たちの総称。男性中心のイメージが強いかもしれないが、今や性別もジャンルも多様。一方で「腐女子」は、その中でも特に「男性同士の関係性」(いわゆるBL=ボーイズラブ)に萌える女性のこと。たとえば、戦う2人の男性キャラを見て「この2人、恋人同士にしか見えない!」と妄想を膨らませて楽しむ。それが腐女子。アニメを「ストーリー」として楽しむオタクに対し、腐女子は「関係性」に注目する傾向がある。
つまり、アニメやゲームを見ていても、視点がまったく違うのだ。対象は同じでも、楽しみ方は別物。それが「腐女子」と「オタク」の差。
腐女子マーケットは、いまや一部のニッチを超えた有力なサブカル市場だ。矢野経済研究所によると、BL関連市場の規模は、2022年度で約26億円。これは商業BL作品だけの数字で、同人誌・グッズ・イベントなどの二次創作を含めると、実際には100億円超の規模とも言われている。さらに、BL作品は電子書籍との親和性が高く、電子BL市場だけで約70億円(2023年推計)に達するというデータもある。
また腐女子層は、単価が高いグッズやコラボ商品への課金率が高く、推し活、聖地巡礼、アニメタイアップ商品の購買意欲が強いのも特徴。つまり「深く狭く、しかし熱く長く」お金を使ってくれる優良層なのだ。腐女子マーケットとは、近年、パチンコ業界のみならずアニメ、ゲーム業界がこぞって供給を強めている見逃せないマーケットである。
腐女子×パチンコはアリ? 特別インタビュー
腐女子の生態を知ればホールの新たな集客のヒントが見えてくる?!
「腐女子×パチンコ」は禁断のカップリングか、それとも理想のカップルか?
果たして、「腐女子×パチンコ」というカップリングが成立するのか。
そんな純粋で不純な疑問に応えていただくためのスペシャルインタビュー。お相手は、元パチンコ攻略マガジンライターで、現役腐女子コスプレイヤーの柳まおさん。

パチンコも大好きで、パチンコライターとしても活躍。現在も根強いファンを持つ。2014年に結婚し、現在は1児の母。
PiDEA編集部(以下、編):本日はよろしくお願いいたします。
柳まおさん(以下、まお):はい、よろしくお願いいたします。
編:さっそくですが、まずは腐女子の消費行動について伺います。腐女子の方々は、推しに対する熱量や消費金額が高いというイメージがありますが、実際のところはどうなんでしょうか?
まお:その通りです。腐女子は、推しや好きな作品に対して非常に高い熱量を持っており、その消費行動は、他のジャンルのファンに比べて高額になる傾向があります。私自身も学生時代、特定のテニスアニメのキャラクターに100万円を使ったことがあります。もちろんコスプレの衣装代や、そのキャラクターが使用していたラケットも欲しくて購入したからということもありますが。
編:(テニスの王子様の話だ♡)
まお:腐女子たちは、推しのためならお金を惜しまず使います。推しを「養っていく」ことが大事ですから。主婦層や学生だと使える金額に限度がありますが、仕事をしている独身腐女子は払えるだけ払うんじゃないですかね。私なんか、お金が足りなくなれば、パチンコで稼いで補填しようとすることもありますし。
編:推しのためなら攻め続ける姿勢ですね。箱推しの方もいるんですか?
まお:そこが一般のオタクの方と少し違う点かも知れません。腐女子は、箱推し(作品全体や登場人物全員を応援すること)ではなく、キャラクター単体、あるいはカップリング(恋愛関係、性愛関係がある二人)に全力推しで、そこにすべてを投資する傾向があります。痛バッグに単推しのキャラグッズを大量に入れたり、推しのカップリンググッズをひたすら集めたりしますかね。
編:めちゃくちゃお金が掛かりそうですよね?
まお:腐女子の皆さんて、意外と言ったら失礼かも知れませんが、しっかりした職業に就いている方も多いです。会社員や看護師など、堅実な仕事で稼いだお金を推し活に充てているんですよ。コミケなどのイベントでは、1日で30万円以上の資金を用意する方も少なくありません。もちろん普段は倹約につとめていますから、コミケ当日はアラブの大富豪になったような気分になるんですよ(笑)。腐女子の中には声優推しの方もいて、推しの声優さんのライブチケットを優先的に得るために1セット6万円ほどするDVD-BOXを10個購入するような行動も珍しくありません。
編:そんな腐女子の方々と、パチンコのカップリングなんていけるものなんでしょうか?
まお:実は、親和性は非常に高いと感じています。これは私がパチンコライターをやっていたから言うのではなく、本当にそう思います。特に顕著だったのが、「おそ松さん」のパチンコ化です。確かメーカーは大一さんだったと思うんですけど、愛知の直営店で限定グッズが導入され、そのグッズはパチンコ玉でしか交換できなかったんですが、そのグッズを求めて、全国から多くの腐女子が駆けつけました。もちろん、そのほとんどがパチンコなんかしたことない人たちでしたが、グッズをゲットするために打ちに来てくれたんです。景品カウンターの前には腐女子の行列ができてましたね。これは、「パチンコでしか手に入らない特別な演出やグッズ」が腐女子たちの心を強くつかむことを示しています。やっぱり腐女子は、「推しのため!」という意識がとても強いので、パチンコが推しのアニメの映画化や続編製作に貢献していると分かれば、積極的にパチンコを打ち、お金を使おうとします。エヴァやガンダムSEEDが良い例で、私の知り合いの腐女子も「パチンコのおかげで次の作品が観られる」という循環があることを知っているので、パチンコの演出や画像を楽しみつつ、お金もたくさん使ってくれていましたね。
編:推しの鏡ですね! パチンコ未経験者でもホールに突撃される勇気がすごい(笑)。 ちなみに最近のホールですと、昔と比べてとてもクリーンなイメージになってきた感じがするのですが、そのようなことも来店に影響しますか?
まお:もちろん、それは大きいと思います。昔は喫煙OKで煙がモクモクしていて、あまりクリーンなイメージではありませんでしたが、最近は禁煙になり、ホール内も明るく清潔になったことで女性も入りやすくなりました。女性専用スペースや、ドライヤーなどが完備された休憩所があるホールも増えており、女性が過ごしやすい環境が整っていますもんね。
編:柳さんからホールの皆さまへお伝えしたいことってありますか?
まお:ホールさんにお願いしたいことは、やはり初心者へのサポート体制です。今のパチンコ台はスペックが複雑で、初めての人が1人で打つのは非常に難しいです。誰かが打ち方を教えてあげられる環境、例えばライターさんや熱心なファンがサポートするイベントがなければ、新規ユーザーは定着しないでしょうね。
編:確かに……。打ち方もそうですが、初めは1人でパチンコホールに入ることすら勇気がいりますよね。
まお:さらに、BL作品そのものや、女性ファンが多いコンテンツをストレートにパチンコ化するのも良いでしょう。もちろんメーカー側の判断も必要ですが、腐女子はそういうコンテンツに非常に敏感に反応し、熱心にプレイしてくれます。また、初心者が気軽に打てるよう、甘デジやライトミドルの機種を導入し、最初の体験で「当たった!」という喜びを感じてもらうことも大切だと思います。
編:腐女子は、パチンコ業界にとって非常に大きな可能性を秘めたユーザー層なのですね。本日は本当に貴重なお話をありがとうございました。
まお:こちらこそ、ありがとうございました。ところで編集者さん、もしかして隠れ腐女子なんですか? 使う言葉のチョイスが匂うのですが。
編:そこらへんはあのー、記事外で(笑)。
パチンコ化された腐女子人気作品はこれまでもあった


作品をきっかけに腐女子を取り込みたいパチンコ業界
「ブルーロック」と「東京卍リベンジャーズ」のパチンコ化はパチンコユーザーたちの間で大きな話題となったが、実はこの2つ、腐女子人気もとても高い作品となっている。
「eフィーバーブルーロック」の実機お披露目が行われたのは「アニメイト秋葉原1号館」と、パチンコ実機お披露目では異例の場所であった。
また、「e東京リベンジャーズ」のお披露目は、主要キャラの声優たちによるイベントにて盛大に行われた。ステージ上で声優が試打したり、会場内に試打ブースが設置されたりと、パチンコノンユーザーの女性ファンが作品をきっかけに初めて遊技することを見越して行われた取り組みであった。

e東京リベンジャーズ ©和久井健/講談社 ©和久井健・講談社/ アニメ「東京リベンジャーズ」製作委員会, ©Sammy
腐女子参入で起こるホールの変化
「腐女子」を新規顧客として迎え入れるためにしなくてはいけないこと
パチンコホールが腐女子の「次の聖地」となるために

現代のサブカル界隈で決して無視できない存在、それが「腐女子」。
アニメや漫画の中で繰り広げられる男性同士の絆や関係性に萌える彼女たちは、推しのためなら労力もお金も惜しまない。しかも、その情熱をSNSで積極的に発信する拡散力まで持ち合わせている。そんな腐女子たちを、ホールの新しいお客さまとして迎え入れるにはどうすればいいのか?
ポイントは3つ、「限定賞品」「限定演出」「SNSの効果的利用」だ。
1/ホールでしか手に入らない賞品を!
腐女子にとって「ここでしか手に入らない」は魔法の言葉。推しキャラの描き下ろしグッズや、ホール限定のアクスタや缶バッジがあると聞けば、全国のファンが押し寄せることも夢ではない。「今週は◯◯×◯◯ペアのブロマイド」などの、週替わりアイテムがあれば、毎週でも通いたくなるだろう。もう機種関連賞品の入荷など必要なくなるかも知れない。
さらに彼女たちのSNSで「今日の戦利品♡」として写真がアップされれば、それがそのまま最強の広告宣伝になる。
2/パチンコでしか見られない「供給(演出)」を!
腐女子の心を掴むには、やっぱり「推しの新しい姿」。「撮り下ろしボイス」や「原作にない特別演出」が遊技機の中に入っていたら、もう打たずにはいられないのが腐女子の性。たとえ大当りを逃しても、「外れ演出で尊い回想が流れた…」なんてことになれば、それだけで満足度は100%なのだ。
とくに人気のあるのは、Wリーチ演出やタッグ演出など、「2人が並んで戦う」、「見つめ合う」「背中を預け合う」といった解釈や妄想のための余白があるシーン。「これ絶対狙ってるでしょ!ありがとう公式!」と、妄想が膨らむ瞬間が腐女子の心を虜にする。
3/SNSで「刺さる」発信を!
腐女子は情報収集の達人だ。しかし彼女たちは、パチンコ関連の情報誌やパチンコ専門サイトは見ない。見るのはアニメ公式、声優のX(旧Twitter)、PixivやYouTube。だからこそ、新台情報はアニメの公式アカウントや、出演声優さんから発信してもらうのがベスト。
例えば、「この台、撮り下ろしボイス入ってます!」と声優がポストするだけで、SNSはもうお祭り騒ぎになるだろう。またコミケやアニメイベントでの試打会、デモ機展示も有効と考えられる。無料で体験できるだけでなく、「映える写真」を撮れる設計にすれば、ファンが自ら宣伝してくれる。
それに加え「この台が設置されているホール一覧」などを掲示しておけば、「帰りに打って帰ろうかな」とそのまま足を運んでもらえる可能性も大だ。

最後に。腐女子たちが推しのためにホールに足を運ぶ日。そんな日は来ないし、それこそ業界関係者の妄想だと一笑に付す人もいるだろう。
ただ腐女子は確かにいるのだ。爆発的な熱量と留まることを知らない行動力を持ち、そして強烈な発信力を持つ彼女たちがパチンコ業界を救うという妄想を暴走させる時間があっても構わないのではないか。