いいことだけでは人は動かない! ドラマティックパチンコ 5000万再生の理由
2026.10.08 / その他AVALINKと劇団スカッシュによるSNSショートドラマ企画「ドラマティックパチンコ」が、公開から約5カ月で全プラットフォーム累計5000万再生を突破した。劇団スカッシュは2002年に旗揚げされ、YouTube総再生数3億5000万回超を誇るクリエイター集団である。制作費は現時点で1000万円以上をAVALINKが自社で負担しており、明確な収益モデルは設けていない。本誌は7月に同社代表取締役・堀ノ上陽太氏を取材。さらに8月18日、ビックマーチ河和田東店で行われた撮影現場を訪ね、監督総指揮の大塚竜也氏と、出演者の大塚祐也氏、前川健二氏に話を聞いた。
ドラマティックパチンコとは!?
ショートドラマ参入を阻む 二つの壁
ショートドラマがSNSで存在感を増していることは、数年前から誰の目にも明らかだった。それでも参入する企業が限られてきた理由を、AVALINK代表取締役の堀ノ上陽太氏はこう説明する。
「最初に当たったのがコストの壁だと思います。制作費が高い。そのうえマネタイズが本当に難しいので、断念されている企業様がすごく多いと思います」
それでも同社は、明確な収益モデルを持たないまま制作に踏み切った。
「マネタイズの目算はまったく立っていないですね。自分たちでやってみて、良いコンテンツだったら助けてくれる人も出てくるだろうくらいの、竹やり特攻で始めました」
背景にあるのは同社の年齢構成だ。平均年齢は30代前半、コアメンバーは20代前半からこの業界で働いてきた。
「まだまだ30年、業界でずっと仕事をしていきたい。だから余計に業界を良くしていきたいという考え方になるんです。辞めた人がもう一度打つきっかけになるんじゃないか。感情も行動も興味関心も作ってくれるのがドラマだなと思って」
他業界の手法を パチンコに転用する実験
もっとも、動機は業界貢献だけではない。同社は他業種でも広告・PRの実務を重ねてきた。
「いろんな業界のマーケティングやPR手法の中で培ってきたものを、パチンコ業界に転換したらどうなるんだろうと。そのテストをしたかったというのもあります」 業界外で通用した手法が、業界内でも機能するのか。その検証の場がショートドラマだった。
劇団スカッシュとは3年ほど前に仕事で接点があり、堀ノ上氏自身、以前から同劇団の作品のファンだった。
「僕自身、スカッシュさんが作る世界観がすごく好きで、パチンコ業界とも相性がいいなとずっと思っていました。そこに捻出できる予算が自社内にできたので、だったらやってみようかと」
最初に持ちかけたのは、劇団スカッシュの既存作品「聖水」のパチンコ版という具体的な企画だった。同劇団は受ける案件を限定していると聞いていたが、話は早かった。
そして企画名には、堀ノ上氏自身の実感がそのまま置かれた。パチンコ人生には、ドラマがある―。
5号機初期から続く 自身のパチンコ人生
「ドラマティックパチンコ」という名称は、社内の実体験から生まれている。
「僕らの年齢だと5号機初期からずっと打っていて、それはそれは人生ドラマがいっぱいあるんです。借金をしたり、朝から並んで打ちに行ったり、仕事終わりや昼休憩にも打ちに行ったり。そこに本当にドラマがあるな、というところから名前をつけました」
勝った喜びだけではない。負けた悔しさも、金が消えた焦りも含めて「ドラマ」だという認識が出発点にある。だからこそ同社は、業界のイメージを良くしたいと言いながら、良い面だけを描くことを意識的に避けている。
「いいことを言い続けるのは 押し付け」
この企画の制作思想をもっとも端的に示すのが、次の言葉だ。
「いいものだよと押し付けられ続けても、ユーザーは拒否反応を起こすんですよ」
PRされていると感じた瞬間に、コンテンツは楽しまれなくなる。堀ノ上氏はそう考えている。
「そのラインのぎりぎりで、こういう考え方もあるよね、これは悪くないよね、というコンテンツを時々投下していく。そのサイクルを作ることで、PRされている感がなく、一つのコンテンツとして楽しめる。あまり『業界、いいでしょ』をしすぎないというのは念頭に置いています」
結果として、作品には賛否が生まれる。それも織り込み済みだ。
「僕ら自身、パチンコ人生のドラマの中で憎いときもあれば、すごく好きなときもある。いいところも悪いところもあるのがこの業界なので、いい面だけを言う必要はないかなと思うんです」
押し付けは逆効果だ、と繰り返す。
「それはもう、人間バカじゃないので。いいことを言い続けられているな、業界を良くしようとしているなという感情になって、興味が逆に薄れてしまうと思っているんです」
狙うのは、視聴者が自分の経験談に重ねられる領域である。負けて腹が立つ。金がなくなる。嫌になる。それでもまた打ちたくなる。その矛盾ごと描くことで、はじめて感情が動く。良い面だけを見せるPR動画ではなく、ユーザーが実際に抱えている感情そのものをドラマにする。
「久しぶりにパチンコに行ってみようかな、とか。動画に出てきた台を見て、今日はこれを打ちますというコメントがあったりとか。そういうところで遊技動機につながればいいなと思うんですよね」
30本強で 累計5000万再生に到達
7月の取材時点で公開本数は30本強。YouTubeやTikTokなど、全プラットフォームの累計再生数は5000万回を超えていた。当初の目標は12本の投稿で累計600万再生、1本あたり50万再生。全プラットフォーム合算でそれが取れれば上出来という想定だったが、結果は大きく上回った。
「始めて5カ月くらいですが、10カ月で1億再生くらいの推移ですね」
一方で、現時点でこの企画自体から収益は得ていない。撮影に協力するホールから費用を受け取ってもおらず、制作費は1000万円以上を自社で負担している。
「儲けは二の次ですね。業界が盛り上がったり、僕らの取り組みに共感してくれる人たちがいたら、一緒に組もうよと言ってくれる方が出てくる。実際に今、そう言ってくださる方が結構いらっしゃいます」
媒体ごとに視聴者も 伸びる内容も違う
配信先はTikTok、YouTubeショート、Instagram、Xの4媒体。伸びる動画は媒体ごとにはっきり分かれる。同社が特に注目するのはInstagramだ。
「Instagramは男性6割、女性4割くらい。つまり僕らに届いているユーザー層が、実はパチンコ人口ではないというのが顕著に表れている」
そのためInstagramでは、業界に特化しすぎた内容は伸びない。一方で、良い話や、演技そのものの面白さ、ストーリーとしてのオチがある作品は伸びやすい。
「YouTubeショートは、本当にパチンコ業界に長くいる方が多い。Xに関しては議論を巻き起こす作品ですね。A派とB派で議論が起きるとか、自分の考えを述べられるような映像作品が伸びやすい」
台本は媒体を想定して書き分けられている。単に一本の動画を作るのではなく、どのSNSで誰にどう刺すのかまで設計する。ホールやメーカーの情報発信にも示唆のある工程だろう。
賞味期限は2年、 目指すはコンテンツホルダー
もっとも、堀ノ上氏はこの企画を永続的な事業とは考えていない。5年後、10年後の展望を尋ねると、返ってきたのは意外な答えだった。
「違う形になると思います。多分もう賞味期限は2年だと思っていますので」
同社が目指すのは、パチンコ業界のコンテンツホルダーとしての立ち位置だ。取材直後には性格診断形式の「パチンカス診断」をリリース。AIを活用して制作し、診断結果をXで共有できる設計とした。最終ページには自社の求人バナーが置かれ、目的は採用にある。結果、AVALINKチャンネルでの採用募集を目的とした動画の投稿及び、パチンカス診断などの効果もあり、採用募集サイトの公開から、約2カ月で40名強の求人の応募が来たという。
「パチンコ業界って面白いよね、と思ってもらえるコンテンツをSNSを通して投下し続けたい。その最初がショートドラマだっただけで、ショートドラマだけである必要はないと思っています」
メーカーやホールからの問い合わせも増えており、遊技動機に直結させる仕掛けは水面下で進行中だという。
取材協力
株式会社AVALINK代表取締役:堀ノ上陽太氏
店休日のホールで 繰り返される1シーンの撮影
8月18日、ビックマーチ河和田東店。店休日のフロアにおいて、撮影は淡々と、しかし何度も繰り返されていた。
一つのシーンに対して、出演者それぞれの表情を抜くカット、全体の動きを捉えるカット、大当り画面のカット。数十秒のショート動画のために、同じ芝居が角度を変えて幾度も撮り直されていく。完成尺の短さからは想像しにくい工程だが、画の密度はここから来ているのだろう。
作風を理解する 発注者だから組めた
劇団スカッシュは2002年に大塚竜也氏のプロデュースユニットとして旗揚げされ、2004年から劇団として本格的に活動を開始。YouTubeのメインチャンネルは登録者50万人を超える。「あがけばあがくほど無様でかっこ悪く、それでも必死に生きようとする人間たちを描く」作風で知られる。
監督総指揮を務める大塚竜也氏が依頼を受けた決め手は、発注者が作品の理解者だったことだ。
「社長の堀ノ上さんがもともとうちの視聴者さんで、作風への理解度がものすごく高かった。そうじゃないと、うちは癖が強いので大変そうだなと思っていました」
撮影方法にもこだわりがある。カットを割らず、シーンを通しで撮る。そのために出演者全員が台本を覚えて現場に入る。
役割分担も変化し、現在はAVALINK側が業界の題材を選び、台本の骨組みまで作る。
「一番最初は割とこちらが書いていたんですけど、今は骨組みができているものを料理させてもらっている状態です」
仕上げで意識するのはショートドラマへの最適化だ。
「最初の数秒でつかむのはめちゃくちゃ意識しています。なるべく最初の方で、何が起こっているのか分かりやすくなるように。あとは、あるあるネタを載せていきたい」
制作は2日間の台本会議に始まり、1回の撮影で4本〜6本を撮る。考案から納品までおよそ2カ月。協力ホールの店休日に合わせた調整が、最大の制約になっている。
有利区間を一から調べて 感情に置き換える
出演者の大塚祐也氏は、普段パチンコを打たない。だからこそ役づくりは調べるところから始まる。
「『有利区間』の話で、パチスロの開発者の役で、涙したり、怒ったり、悔しがったり、気持ちが上下する役をやらせていただいたんですけど、自分の中にもともと思いがないんですよね」
有利区間とは何かを一から調べる。ただし、それだけでは足りない。
「到底、開発者と同じ熱量を持って挑むことはできない。だから、実際にやっている人たちが見て恥じない部分はどこかという探し方をして芝居を作りました。この感情だったら許してもらえるかな、という」
届いたコメントが手応えになった。知らない人にはよく分からないけれど熱い、知っている人にはよく言ってくれた──。
一方で、演技そのものを〝パチンコファン向け〟に変えることはしていないという。
「いつもの熱いのをそのままやってほしい、それが絶対好きですと言われたんです。パチンコ用に意識するのは、むしろおこがましいと思っています」
※「有利区間」をテーマにした動画はコチラ
5.9号機時代を耐え抜いた開発者に捧ぐ(long ver.)
パチンコを知らないから 見えるもの
同じく出演者の前川健二氏は、ロケーションそのものの新鮮さを挙げる。
「パチンコ屋にあまり入ったことがなかったので、ロケ地がパチンコ屋というのは単純に面白いですね。役者としても」
一方で、打ち手の所作には不安も残る。ナビ通りに押す動きは分かっても、ナビがないときに何を狙えばいいのかという知識がない。普段打っていないと見抜かれないか、という緊張が常にある。
思い入れのある作品には、店長以下の従業員全員がミリオンゴッドに土下座し、設定通りに出てくださいと願う一本を挙げた。ホール側の切実さもユーザーの共感を得られるのではないか、と考えたという。
※ミリオンゴッドに土下座する動画はコチラ
シリーズが認知されている実感は、現場の外にもある。
「現場のスタッフさんだったり、街の一般の方に、AVALINKさんの撮影だとめちゃくちゃ声をかけられるんです。パチンコ関連の人たちは本当に温かいですね」
業界の外にいた作り手が業界の感情を調べ、納得できる形に置き換えて演じる。その手つきが、業界内には「よく言ってくれた」と映り、業界外には一本のドラマとして届く。その両方に届いていることが、5000万再生という数字からもうかがえる。
最初がショートドラマだっただけであり、賞味期限は2年だと堀ノ上氏は言う。良い面だけを見せないという一点を守りながら、パチンコを面白いと思わせるコンテンツを投下し続けられるか。業界のイメージが動くとすれば、その先だろう。
ドラマティックパチンコ動画は以下をチェック
(YouTube)
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