パチンコ業界×異業種コラボ ━━ 未来を切り拓く新しい挑戦〝アトオイ〟
2025.10.16 / ホール【ケース1】マルハン東日本C×夕闇に誘いし漆黒の天使達
異色コラボが切り開く新しいエンタメの地平
パチンコ業界と音楽フェス。一見、交わることのなさそうな二つの世界をつないだのが、バンド「夕闇に誘いし漆黒の天使達」(以下、夕闇)とパチンコホール大手・マルハン東日本Cのコラボレーションだ。単なるタイアップにとどまらず、バンドのキャラクター性と遊技文化の双方に新しい可能性を示している点で注目される。

「SPECIAL FEVER NIGHT」のMVは「マルハンメガシティ横浜町田」の店内で撮影された。
MV撮影がきっかけとなった出会い
出会いの原点は、2024年に公開された楽曲「SPECIAL FEVER NIGHT」である。メンバー自身がパチンコに熱中していた時期に生まれたこの曲は、遊技の高揚感をそのまま音に乗せたものだった。どうしてもホールの臨場感を映像に収めたいと願い、「マルハンメガシティ横浜町田」でのMV撮影が実現した。
通常、営業ホールでの撮影はハードルが高い。しかし、同店の田中一生店長が音楽好きだったこともあり、深夜の閉店後に全面協力が得られた。煌びやかな光と静寂が同居する空間で撮影されたMVは、単なる音楽映像を超え、遊技場の持つ「非日常感」を最大限に引き出すものとなった。
「好き」を前面に押し出す夕闇のキャラクター性
夕闇の特徴は、単に音楽性だけでなく、その「キャラクター性」にある。高校の文化祭で組んだコピーバンドがルーツだが、ただのラウドロックでは終わらず、コミック要素を交えた〝笑えるバンド〟として独自の立ち位置を築いた。YouTube活動を並行させたのもその延長線上であり、エンタメ全般を自分たちなりに料理するスタイルはファンに親近感を与えている。
彼らは「好きなことをやる」ことに正直だ。作詞担当の小柳(ボーカル)と作曲担当のともやん(ベース)がパチンコ好きであることを隠さず、それを曲や動画にまで昇華させた。こうした姿勢は、リスナーにとっても「身近で共感できる存在」として映る。派手な衣装や作り込まれたキャラクターで押し出すのではなく、飾らない日常の延長で「オモシロさ」や「好き」を届ける。そのスタンスこそが夕闇の真骨頂である。

パチンコ好きのともやんは夕闇でベースギターと楽曲全般の作曲を担当。
パチンコ業界の現状課題と夕闇との接点
一方で、パチンコ業界は深刻な課題を抱えている。最大の問題は「若年層の遊技離れ」だ。かつてはレジャーの王様と呼ばれたパチンコも、現在では中高年層が中心。20代、30代の利用率は低迷し、遊技人口そのものも減少傾向にある。さらに「ギャンブル依存症」などの社会的なネガティブイメージも根強く、業界のイメージ刷新は喫緊のテーマとなっている。
そこで重要になるのが「新しい接点」の創出だ。従来の広告宣伝だけでは届かない層に、音楽というエンタメを媒介としてパチンコ文化を知ってもらう仕掛けが求められている。夕闇のような若者に人気のコミックバンドとのコラボは、まさにその打開策の一つといえる。
彼らのファンはYouTube世代であり、パチンコに馴染みのない若年層も多い。MVやライブ、SNSでの発信を通じて「パチンコってこんなに面白いんだ」と感じるきっかけを与えられるのは、業界にとって大きな価値があるはずだ。
ファン層拡大と現場での手応え
マルハンとの連携は、夕闇にとってもメリットが大きい。ホールに集まる客層と従来のバンドファン層は異なるため、新しいリスナーを獲得するチャンスとなる。実際、初めての来店イベント(山口県の某ホール)では「ファン対応の列が史上最長だった」とホール関係者が驚いたという。音楽ファンとパチンコファンが交差する瞬間は、これまでにない熱量を生み出している。
さらに、2025年6月から9月にかけて開催された全国ツアー「MECHAMECHA JAPAN TOUR」では、コラボをきっかけにつながったゲスト陣がステージを彩った。豊洲PITでのワンマンに続き、川崎CLUB CITTA'でのツアーファイナルにも「にゃんまる」が登場。パチンコとのコラボがライブ演出にも自然に組み込まれ、音楽活動の幅を広げている。
今後の展望─遊技機収録という「夢」
夕闇のメンバーが次なる目標として語るのは「楽曲の遊技機収録」だ。自分たちの曲がパチンコ・パチスロ機に搭載されれば、ホールに訪れる人々に自然と楽曲が届く。これは従来の音楽流通やライブ活動とは異なる、新たなリーチの方法だ。しかも、その経路は彼ら自身の「好き」がきっかけで切り開かれたものだからこそ、説得力がある。
ボーカルの小柳氏は「パチンコとのコラボは、僕らの音楽を知らなかった層に届く大きなチャンスになる」と語る。その上で、ホールはライブハウスやサウナ、商業施設と隣接させるなど、気軽に立ち寄れる環境づくりが必要だと指摘する。パチンコを「お金がかかるギャンブル」ではなく、「娯楽のひとつ」として受け入れてもらう工夫、そして業界内での連携やコラボによる話題づくりこそが、若年層への扉を開く鍵になるという。

ボーカルの小柳氏はパチンコ・パチスロが大好き。遊技機を試打するYouTubeも多数アップしている。
【ケース2】ダイナム×にじさんじ
VTuber文化とのコラボが生んだ可能性
パチンコホール大手のダイナムと、国内最大級のVTuberグループ「にじさんじ」によるコラボレーションが実現した。この取り組みは単なる話題づくりにとどまらず、若年層との接点拡大や業界イメージ刷新といった戦略的な意味合いを持っている。その交渉の舞台裏から実施後の成果、今後の展望までをたどりながら、異色コラボの意義を探った。

難航した交渉の始まり
ダイナムが最初ににじさんじにコラボを打診したのは、昨年12月。当初の企画は景品コラボ。しかし、にじさんじ側は「基本的にパチンコホールさんとの協業はNG」と即座に拒否された。風営法で禁止されている未成年への誘引リスクなどコンプライアンス上の懸念があったためだ。
それでもダイナムは粘り強く交渉を重ね、担当者自ら六本木のANYCOLOR社を訪ねて面談を実施。年明け以降もメールや説明を重ね、最終的には役員を巻き込み「単なる集客ではなく、娯楽産業としてのパチンコを若年層に伝えたい」という熱い思いを伝え続けた。
景品からPRへ―戦略の転換
「景品コラボは未成年誘引のリスクが高い」との理由で頓挫。若年層に多くのファンを抱えるにじさんじ側はコンプライアンスに対して非常に厳格であった。そのため、景品から 「企業認知」と「遊技機のPR」 へと戦略を切り替えた。景品ではなく、ダイナムが独自に開発している「PB機そのもののPR動画」という形にシフトしたことで、両者の利害が一致した。にじさんじ側にとっても、未成年を店舗へ誘導するリスクがなく、純粋なエンタメコンテンツとして成立する。
ダイナムはこの転換により、パチンコを「勝ち負けのギャンブル」ではなく「時間消費型の大衆娯楽」として訴求できる土台を整えたのである。
驚異的なスピードで実現した番組制作
PR企画が動き出すと展開は一気に加速。通常なら3〜6カ月かかる番組制作を、わずか2週間で完成させた。これは台本や映像制作をダイナム側がほぼ内製化し、クリエイティブを迅速に供給したことが大きい。
背景には「お盆までに間に合わせる」という明確なリミットがあった。結果として8月8日午後8時に番組が放映され、X(旧Twitter)の事前告知は122万インプレッションを記録。同社としてはアカウント創設以来、最大の数値を記録した。

若年層への確かなリーチ
放映後、具体的な成果が数字として現れた。動画は約10万回再生され、視聴者の70%が34歳以下の若年層。女性比率も通常の1割から3割に達し、従来のパチンコ業界の枠を超えたリーチに成功した。ちなみにそれまでのダイナムチャンネルはでは35歳以上の中高年層が80%を占めていた。
さらに、コラボを告知しただけの投稿がSNSで122万インプレッションに達するなど、情報拡散力の高さも際立った。また、関連グッズの「エヴァンゲリオン ステンレスボトル」は月5〜6本の売上が、配信後は一気に100本以上に跳ね上がり、購買行動への影響も裏付けられたという。
信用構築と次なるステージ
今回のコラボは景品企画には至らなかったものの、両社にとって「リスクを最小化しながら成果を出せる」協業モデルを証明した点で大きな意味を持つ。
次なる舞台は、ダイナムが共同運用を進めるゲームアプリ「スロパチスピリット」。アプリ内でバーチャルホールを再現し、遊技台を選んで遊べる仕組みで、ホールに入りにくい若年層への接点を提供する狙いがある。アプリは未成年者も参加可能(※店舗でのチェックイン機能には制限あり)であり、コンプライアンスの壁がなく、にじさんじをはじめとするVTuberとのコラボにも最適だ。今回の実績を踏まえれば、他VTuberとの連携も十分視野に入る。
異業種コラボが示す可能性
ダイナムとにじさんじの協業は、業界に新たな示唆を与えた。VTuberは単なる広告塔ではなく、潜在顧客層へのリーチとブランドイメージ刷新を同時に実現する存在であることが明らかになったからだ。
パチンコ業界は長らく「大衆娯楽」としてのポジションを模索してきたが、今回のコラボはその理想を具現化する一歩となった。既存顧客に依存せず、Z世代を含む新しい層を巻き込むことで、業界そのものの未来像を更新していく試みだ。
ダイナム×にじさんじのコラボは、異なる文化が交わることで新しい価値を生み出す好例となった。慎重な交渉と戦略的転換によって成立したこの取り組みは、単なる話題づくりに終わらず、業界イメージの刷新と若年層への接点拡大を目指している。

「にじさんじ」とのコラボを実現させたダイナム店舗運営部の國武俊介Mgr(右)と動画制作に携わった営業統括部の岩崎崇大氏。
【ケース3】P-time×地元企業
P-timeが挑む〝沖縄をもっと楽しくする〟共創プロジェクト
地域に根差すパチンコホール「P-time」が進めるのは、地元企業や行政との共創を通じた挑戦。特産品の取り扱いから従業員意識の変化まで、業界の枠を越えた取り組みは、地域の信頼を築きながら新たな可能性を切り拓いている。

地域とともに歩むホール企業
沖縄県内でパチンコホールを展開する企業「P-time」は、単なる遊技場の枠を超え、地域との共生を軸としたビジネスモデルを築きつつある。2021年5月から、コロナ禍で苦境に立つ地元企業を支援するために、沖縄の特産品をホール賞品として取り扱う活動を開始。現在も2カ月に1回のペースで継続され、その回数は30回を超える。
この継続的な取り組みは、単なる地域貢献にとどまらず、地元企業との関係強化、従業員の意識改革、そして業界全体の社会的評価向上という多面的な効果を生んでいるのだ。
地元企業が語る「共創」のリアル
P-timeの取り組みに参加したある地元の食品メーカーの担当者は、当初の心境をこう振り返る。
「実際にお話を聞いてみたら、〝沖縄を楽しくしたい〟っていう思いがすごく伝わってきて、それが本気なんだなって感じたんです。そういう姿勢に惹かれて、一緒にやってみようと思いました」
また、観光土産を手がける別のメーカーの担当者も、取り組みの効果をこう語る。
「うちの商品をP-timeさんの店舗で扱ってもらってから、これまでなかなか届かなかった層にも商品を知ってもらえて、すごくありがたかったですね。うちのような小さな会社にとっては、本当に大きなチャンスでした」
こうした声から見えてくるのは、単なる売上や取引ではなく、「信頼」や「共感」を土台にした新しい地域流通の形だ。
信頼が道をひらく―大手企業・行政との連携
この地道な活動は、やがて大手企業や自治体との協業へと発展する。県内の大手スーパー「ユニオン」との連携では、これまでの取り組み実績を示すと「じゃあ、ぜひやりましょう」と即答が得られたという。信頼こそが、協業の扉を開いた鍵だった。
また、今年10月には那覇市長賞の受賞商品をP-timeのホール景品として扱うことで、那覇市の表彰制度の認知度向上や商品の広がりを後押ししていくという。これは、行政の取り組みと民間企業の販促が互いに補完しあう好例だ。
さらには、沖縄を代表するビールブランド「オリオンビール」を賞品化した事例もあり、業界イメージの転換に一石を投じている。

「ピータイム沖縄をもっと楽しくするフェア」。数々の地元企業とのコラボは2021年からずっと続けられている。
働く意義を再定義する―現場の変化
従業員の意識にも大きな変化が生まれている。
当初は「手間が増える」と感じられていた活動も、協業先からの感謝の言葉や、商品を喜ぶお客さまの姿を通じて、「自分たちは地域に貢献している」という実感へと変わった。
今では、自ら地元企業を探して「この企業と組みたい」と提案するスタッフも現れ、賞品の魅せ方を考えたレシピ提案や販促アイデアまで出てくるようになった。業務の幅が広がったことで、マンネリ感が解消され、従業員一人ひとりが「地域の一員」としての誇りを持つようになっている。
ある従業員はこう語る。
「家族から〝いいことしてるね〟って言われたのが嬉しかった。パチンコってどうしてもイメージがよくないって言われがちですけど、自分の仕事に誇りを持てるようになりました」
「沖縄を楽しく」し、パチンコの社会的地位を変える
もちろん、すべての企業が快く協業に応じてくれるわけではない。とりわけ子ども向け商品を扱う企業や、上場企業では、パチンコ業界との連携に慎重な姿勢が根強い。社会情勢や報道の影響もあり、企業イメージを守るために協業を避ける動きもある。
しかし、P-timeは「実績を重ねていけば、いつか大手上場企業の製品でも〝ぜひ一緒にやりましょう〟と言ってもらえる日がくる」と信じて、活動を続けている。業界の枠を越えて、社会的存在としての信頼を築こうという覚悟がそこにはある。
P-timeのビジョンは明確だ―「沖縄をもっと楽しくする」。この言葉はスローガンではなく、企業活動そのものを支える行動指針となっている。
行政、地元企業、そして従業員。三者がつながり、共に地域を支えるこの構図は、パチンコ業界の未来に希望をもたらす。単なる遊技場から、地域共創のプラットフォームへ。P-timeの取り組みは、業界の限界を打ち破る挑戦であり、社会に開かれたパチンコホールの可能性を示している。
【ケース4】ワンダーランド×そろ谷のアニメっち コラボのその後
270万回再生突破、YouTube新展開へ
福岡を拠点にホール「ワンダーランド」を展開するタイラベストビートが人気YouTubeアニメ「そろ谷のアニメっち」とコラボレーションしたオリジナルキャラクター「ワンダーエージェント」。2025年6月から隔週で公開された全6話は、ついに一区切りを迎えた。では、その成果と手応えはどうだったのか。

270万回再生を突破した全6話
全6本の動画は、YouTubeで合計270万回を超える再生数を獲得。そのうち1本は100万回超再生を達成するなど、既存ファンはもちろん新規ファンも巻き込み、大きな話題を呼んだ。コメント欄には「想像以上に面白い」「キャラがクセになる」といった声が集まり、コンテンツとしての完成度は高く評価された。
一方で、来店客との距離感については「まだ課題を感じる」と同社は分析する。デジタル上での成功を、リアルなホール体験につなげるには今後の工夫が求められそうだ。
社内外からの好意的な反応
再生数だけでなく、社内や業界関係者からの評判も上々だったという。営業現場では店内プロモーションを展開し、社員や取引先から「そろ谷とコラボしたんですか!すごい」といった驚きや喜びの声が多数寄せられた。
YouTube上での高い視聴率は、同社にとって「今後のデジタル広告におけるコンテンツのあり方を学ぶ機会となった」との手応えも残した。
新チャンネル「ワンダーTV」での展開へ
8月からは新たに「ワンダーTV」という公式チャンネルを立ち上げ、番組配信を開始。今後は「ワンダーエージェントやねん」と「ワンダーTV」をクロスさせた施策も構想中で、さらなるコンテンツ戦略の広がりが期待される。
また、プラットフォーム展開も加速している。TVerでの配信に加え、直近ではABEMAへの広告出稿を計画。Instagramでは同社の百年橋店アカウントで配信した動画が累計50万回再生を突破し、TikTokなどインバウンド施策も視野に入れた強化を進めている。
ディー・エル・イーが語る「コラボの意味」
制作を担ったディー・エル・イーも、この取り組みに手応えを感じている。
「平本社長がそろ谷ファンであることから始まったお話でしたが、『挑む』という企業風土とトライ&エラーを重ねてきたそろ谷の相性の良さを感じました。歴史あるキャラクターを新しい形で再構築することは当社の得意領域。課題解決にもつながると考えました」(ディー・エル・イー)
さらに反響については「平均的なYouTubeチャンネルと比べても走り出しは非常に好調。想定以上の反響が生まれています。ただのコラボで終わらせず、広告塔として昇華させたい」と語る。
コラボの〝その先〟へ
大きな数字と話題を獲得し、社内外からも評価された「ワンダーエージェント」プロジェクト。デジタルとリアルをどう結びつけるかという課題を残しつつも、ワンダーランドの新たなマーケティング戦略の可能性を示す結果となった。
次なるステージは「ワンダーTV」や複数プラットフォームへの展開、そして広告塔としてのキャラクター活用。ワンダーランド×そろ谷のコラボは、まだまだ進化の途上にある。
