大行列の熱気を 超えた先に光る “現場力”とは 〜行き過ぎた「期待」が作る巨大な行列〜
2025.06.16開店時の並びこそパチ屋の華。古今東西、熱気を含んだ朝イチの並びは「パチンコ」という娯楽を象徴する風景であり、それ自体が人を呼ぶ重要な「広告」になっている。
しかし何事も〝過ぎたるは及ばざるが如し〟。近年は過剰な並びがトラブルのタネになっているという話も度々耳にする。事実、年末年始やゴールデンウィークなどの繁忙期には店舗のキャパを越える並びが発生したり、一部のモラルを無視したユーザーの並びが発生すると、その様子はSNSで拡散されてしまう。
競合店へのアピールのため、ホールによっては意図的に多数の並びを作る狙いがある場合もあるが、何かしらのトラブルに発展してしまうと本末転倒だ。本来、「たくさんお客さまが並ぶ期待感の高い良いお店」という事実による人気店舗ブランディングが並ばせる狙いであるが、過剰な並びはネガティブブランディングにつながる可能性がある。
しかし、歯がゆいことに、台数を超えるような並びは人気店であれば発生してしまう。今回はそんな、「並び」について、実際の成功例・事故例をもとに、それが生み出す「経済効果」や上手くさばくための「現場力」について見ていこう。もしかしたら、明日からすぐにでも参考にできる「冴えたやり方」が見つかるかもしれない。
増え続ける「並び」と集中する特定日
まずは現状の「並び」を取り巻く状況を確認しよう。
小誌編集部が行ったアンケートによると「並びが今ほどではなかった2019年頃と比べ、今はどの程度並び人数が増えているか・減っているか」という問いに対し「3~5倍になっている」という答えもあるなど、スマスロの登場などによって、おおむね店長たちの回答は「増えている」という項目に集中した。
さらに状況を絞って聞いていく。「特定日」とそうではない日の並び人数の偏りについて言及する店長もいるなど、世論は「今は並び人数が増えており、しかも特定の日に集中する傾向がある」という考えが一般的であるようだった。
問題は「なぜ並びが増えているか」「なぜ偏るか」だが、これは「機械性能の過激化」がまずあると考えられる。
昨今の機種は吸い込みもリターンも過去に類を見ないほど激しくなっており、低設定は勝負にならず、出れば高設定という認識が一般ユーザーの間ですっかり浸透している。
そしてこの傾向に「特定日」の考え方と、それを簡単にチェックできるネット周りの環境が拍車をかけた結果、多くのユーザーにとって「パチスロを打つ時は特定日の店に朝から並ぶ」のがもっとも勝利につながりやすい行動となった。その傾向は、設定6をツモった際のリターンが大きなスマスロの登場により、さらに顕著になっている。
もちろんこれ自体は必ずしも悪いこととは言えない。勝負事である以上、ユーザーが勝率を上げるために考え、行動するのは当たり前のことであり、自然なことだ。むしろ出す店の朝の並びが長くなるのはユーザーからの期待感の表れであり、ホールは本来、手放しで喜ぶべき慶事だ。しかし、問題なのはこの「期待」が過ぎ、店舗の想定を越えた、制御不能な並びが発生していることだ。
特に今年に入って「並び」が引き起こしたトラブルが全国で立て続けに発生した。春にはSNS上で「並び崩壊」が一躍トレンドワード化した。一体何が起きているのか。次に並び関連のトラブルの実例を見てみよう。

立て続けに起きる「並び」関連の事故・珍事たち
繁忙期には毎度のことではあるが、2025年のGWは特に「並び」関連のトラブルが全国各地で立て続けに発生した。まず先陣を切ったのは4月25日深夜、都内の人気店Mでのこと。翌日に控えた周年祭とGW初日が重なり、店舗側の想定以上に早い時刻で抽選限界人数に到達。結果、昔懐かしの「前日打ち切り」が発生した。この件は並びが深夜だったこともあり、実際の現場のカオス状態が動画で拡散されるなどした。偶然とは重なるもので、この前日には関西方面の某S店でも定刻(朝7時)前の打ち切りが発生し、SNS上で注目のニュースとなってしまった。
また、同日には並びのさばきで定評があるA店でも定刻前の打ち切りが発生。こちらはルールを守っていない客たちが勝手に列を作るも、定刻になるや何事もなくそのまま抽選が行われるという、ある意味では並びさばきの手際の良さが際立つ結果となったが、それによりルールを守ったお客さまが抽選を受けられないという悲劇も一部発生してしまったことは、全国の行列をつくる店舗にとって大きな問題提起となったことだろう。
同様の事象はGWが本格化した30日、都内C店でも発生。ただし、こちらは先行する店舗たちのニュースを受けて2日前から「抽選入場に関する重要なご案内」と題した注意事項を入念にポストしていた。にもかかわらずの出来事であり、むしろ再三のルールを破った客側に批判が寄せられる結果となった。

並びは広告、混乱は毒。さばき力こそが命。
そして、GW後半の5月5日に起きた九州方面G店で、近隣カフェの窓ガラスが破壊される事件が発生した。これはまったく無関係の事件という可能性も否定できないが、事件発生が当該店舗の抽選打ち切り直後だったことで「犯人は抽選漏れしたユーザーではないか」という疑念が取り沙汰された。もしそうならば立て続けに起きる「過剰並び」関連で明確な被害が発生してしまった事象であり、単なる店舗ごとの事例としてではなく、業界全体で再発防止に取り組むべき課題となった。
以上に取り上げたのはSNS上で大きく拡散されたある意味では著名な「過剰並び」であり、話題にこそならなかったとはいえ、もっと小規模なものは全国各地でも発生していたことだろう。それらをひっくるめ、2025年のGW期間はパチンコ業界に忍び寄る「過剰並び」の気配が特に色濃かった2週間であった。ホールや機種の人気があることは良いことだが、これを機に並びについてもう一度考えることになった店長も多いのではないだろうか。
機械性能や広告戦略などに大きな変化がない以上、ホールの朝並びは今後も全体の傾向として深刻化を食い止めなければならない。事実、何もない平日は並びがひと桁でも、特定日となるや100名以上が並ぶなど、お客さまの集中が徐々にスタッフの人的リソースを圧迫しつつある店舗もある。と、こう書き並べると「並び」そのものがネガティブに映るが、逆にこれを効果的に利用し、称賛を浴びるプラスの結果につなげた店舗もあった。

熱狂の裏に潜むリスクと問われる覚悟。
過剰並びに“逆張り”の一手
例えばこのGWで象徴的だったのは、4月27日に起きた関西人気店Kでのできごとだ。これは「過剰並び」関連のニュースが本格的に注目を集めはじめた頃の事案。発端となったのは、並び開始時間を巡る攻防だった。朝6時の駐車場開放と共に大勢のユーザーが押し合いになったことで、ユーザー同士の揉め事が発生したというもの。例によって怒号が飛び交う現場の動画などがSNSで拡散されたことにより一気にバズった。しかし、K店は転んでもただでは起きなかった。なんと、同店はその日の営業で、並びルール無視のユーザーが占拠するであろう20スロではなく、常連客や比較的ルールを守ったであろうお客さまが多く着座すると考えられる、5スロでの大開放という一手を打った。
まるで三国志時代の董卓将軍配下軍師・李儒の「虚誘掩殺の計(わざと虚しく見せて敵をおびき寄せ、隠れていた兵でこれを包囲し、殲滅するという計略)」だ。このエキセントリックな手法が拡散されるや、K店は「過剰並び発生店舗」から一転、大絶賛を浴びた。多くのホールが歯がゆい思いをすることが多かったGW中の話題の中で、ネガティブに拡散させないための発想の転換という故事として語り継がれていくだろう。
設定を入れれば入れただけ軍団がその恩恵を受け、日頃の感謝を一番届けたい常連客に届かない、という「特定日」が先導する市場原理の根源的なジレンマに対して一石を投じた形になった。実際、GW中に頻発した並びトラブルでは、そのホールに対しSNS上でK店に倣うよう進言する声も多く見られている。
また、過剰並びを称賛に変えた好例として、少し前の話であるが、神奈川の人気店Tも有名だ。周年日前日、深夜の時間帯から翌日の抽選参加券を獲得するため、駐車場で待機する普段同店に来ない流動客ユーザーが集まってしまった。寒い冬のため、駐車場に車を停めたユーザーはエンジンをかけ車内で暖を取ろうとする。しかし、周辺は住宅街ということもあり、近隣への迷惑を考慮した店長は、「深夜から並ばないで」と投げかけ、続けて「出さないのでゆっくり来てください」とポストした。元々出す時は強烈な出玉を出すイメージがある店舗の周年日で、本当に出さずに平常営業をしたことは、モラルを無視したユーザーたちへ強烈なカウンターパンチを浴びせることとなり、ルールを守った結果抽選にあぶれてしまった善良なユーザーから大賞賛された。
マイナス×マイナスでプラスにするという算数のようなマジック。店長の胆力なのか、発想力なのか。本来マイナスに引っ張られてしまう事象をプラスに変換させる功績は非常に大きい。

SNS時代の並びさばきは企業の命運を左右する
どんな情報であれ、SNSによってあっという間に拡散されてしまう昨今、朝の並びさばきでしくじることは、企業イメージの毀損に直結し、それまで積み上げてきたブランド力を低下させるリスクをはらんでいる。実際、今年のGWに起きた過剰並びは、SNSのみならずYahooニュースなどでも広く拡散され、数々の批判コメントを寄せる結果となった。
一方、前述のK店のようにそれらを上手く「捌く」ことで称賛を浴びる店舗もある。もちろん、K店と同じことを行うには、当日の並びを見た上での現場判断でのフットワークの軽い設定変更が必要であり、法人によってはルール上不可能なところも多いだろう。そう、結局「並び」に対応するのは現場のスタッフたちであり、必要なのは「現場力」である。
これは単に「並びをさばく力」を含むが、より広範には不測の事態でトラブルが起きてしまった時にでも、それを安全にリカバーする、あるいは災いを転じて福となす力を指す。

今後の「並び」との向き合い方。並びの有効活用の方法は?
現場力が光る、混乱のない“打ち切り”運営
例えば、都心部にほど近い千代田区において連日数百人〜千人規模の並びが発生するホールとして知られる有名店Iは、スタッフたちの「さばき」の素晴らしさに定評がある。入場抽選の締切は9:30だが、土日祝や特定日などは当たり前のように打ち切りが発生。慣れていない店舗であれば打ち切りの時点でトラブルの気配がヒタヒタと近づいてくるところだが、I店のスタッフたちは冷静そのものだ。特にこの6月は「周年月」ということもあり初日から2000名近くのユーザーが集結。9:20の時点で当たり前のように打ち切りが発生した。
が、スタッフもユーザーも慣れたもので、打ち切りの時点で早々にSNS上にその情報が投下されるやまたたくまに拡散。近隣店舗の迷惑にならぬよう、あぶれたユーザーは即時素早く散っていた。
近隣には規模は違えど3つの店舗があり、そちらに流れるユーザーも多数。打ち切りの瞬間、ユーザーの集団が小走りで他店に向かう光景はI店周辺ではすっかり朝の風物詩になっている。
なお、実は6月の初日は珍しくI店でもトラブルが発生した。抽選機の不具合であるが、このため入場が1時間ほど遅れてしまった。他店であれば暴動が起きてもおかしくない緊迫した状況であるが、特にトラブルが発生することはなかった。長時間待たされたお客さまは可哀想だが、不具合が解消されるとともに熟練のスタッフがあっという間に1000人規模の人員を整理。スイスイと店内に誘導していく様は圧巻の一言。なお翌日2日は抽選機トラブルの影響も特になく、当たり前にまた1000人規模の並びが発生していた。店舗裏に位置する複合施設にはすっかり名物となったI店の行列が一直線に整然と伸び、スタッフが慣れた様子でそれをさばくのも普段通り。前日のトラブルのことなど微塵も感じさせない様子だった。
このように、トラブルが起きてしまうのは仕方がない。機械の不具合であればなおさらどの店にだって平等にリスクがある。大事なのはトラブルを大きくせず、現場でしっかり抑えること。そして翌日以降に禍根を残さないことだ。その観点でいうと「日本有数の並び店舗」であるI店で珍しく起きた今回の事件は、はからずも普段の並びさばきのトレーニングや万一に備えたオペレーション確認などにより醸成された、店長・スタッフたちの「現場力」が存分に活きた例だといえる。ちなみに余談だが、I店にてトラブルが発生した日のトータル差枚はユーザー側のプラスであり、SNS上ではこれを称賛する声もあった。
商店街と共存するA店の“覚悟ある並び”戦略
I店と同じ沿線にはもう一店舗、日本有数とされる長蛇の並びが発生する人気店がある。先に紹介したA店がそれだ。A店は先述のGW中のトラブルが大きく報じられてしまったが、普段は整然とした並び捌きが特に上手いとされる店舗の1つだ。
都内有数の観光地でもあり、しかも某ドラマで知られる有名な演芸場の隣という奇跡的な立地柄もあり、並びにおいては「喫煙」「ポイ捨て」など街の景観を乱す行為に厳しい対応をすることで知られている。路上喫煙などを発見した場合、店長自らが一発退店・出禁を直接伝える姿も度々目撃されている。
だがオープン当初は、そもそもこの場所で長蛇の並びはどうなんだという声もあり、近隣住民からの批判の声も根強かったという。しかし、A店は敢えてコンパスなどのオンライン抽選システムを使わず、並びを作ることを優先した。これは逆に「近隣の商店街のため」という判断だった。古くからの店主たちが多い商店街からすると新参の企業。しかも他エリアから進出してきた法人ともなると軋轢も予想される。A店は敢えてそこに素早く溶け込むため、並びを作り商店街の朝を盛り上げる方向に舵を切った。
パチンコ好きな人にとっては当たり前の行動だが、なにせ並びのユーザーは近隣に金を落とす。コンビニで朝食や飲み物を買ったり、マクドナルドなどのファストフード店や、ドン・キホーテなどの24Hストア、牛丼チェーンやの定食屋との相性は非常に良い。端から見てもA店オープン以降、周辺の飲食店の朝客数は増えており、実際、商店街からは店長に対し直接感謝の声も届いているという。だからこそ、A店はその期待に応えるよう、並びに対して厳しいルールを課しているのだ。
これを行うにはただ漫然と整理を行うだけではなく、相応の人員配置とトレーニングが必要になる。要は「予算がかかる」。そして、単に予算がかかるだけならば、コンパスなどのオンライン抽選サービスを利用したほうがはるかにお手軽だ。都内観光地の大型店で敢えてそれをしない、という選択は控えめに見てもリスクが大きく、実際、オープン当初は批判の声が非常に大きかった。
しかし、時を経て現在は受け入れられており、目標通り地域の商店に大きな経済効果をもたらしている。この覚悟をもった「並び捌き」に対する姿勢には見習うべき点を見出す店長も多いはずだ。重要なのはそれほどの覚悟をもって並びを選択しているA店ですら、GW中にはトラブルは発生していたということ。そう。今の時代、どんなにさばきが上手い店だとしても、トラブルは起きるもの、なのである。

並びは広告か、それともリスクか─店長が問われる判断力
ここまで数々の事故例と、そしてK店の逆転例。そしてI店、A店のような捌き巧者の例を見てきた。SNSでどんな些細なできごとですら簡単に拡散されてしまう今、人気店であるほど並びのさばき次第でブランド力を損なうリスクがある。
特定日には他店との絡み、そしてインフルエンサーの一言により、想定不能なほどの人が押し寄せアンコントローラブルになることだってあるだろう。長大な並びは、上手くさばければ広告として機能し、それだけで話題になる。近隣の商店へのリターンも「地域密着」を謳う店舗にとっては見逃すことができないポイントだ。
店長はこれらを勘案し、今後難易度を増していくであろう並び捌きと、どう向き合っていくかを考えなければならない。もちろん、そこには費用こそかかれど「オンライン抽選」という最終的な解決策もちゃんと残されている。むしろ並び崩壊でお客さまに迷惑をかけ、企業イメージの毀損が発生してしまうくらいならばハナからオンラインを使っておくほうがいい。
大切なのは、「人を集める」ことと「人を迎える」ことは似て非なる、という視点だ。期待を集めたその先に、どんな朝を提供するのか。そこにホールの姿勢が映し出されている。お客さまの「期待」を裏切らぬよう、どちらの方向でいくのかをじっくり選びたい。
