たくさん売れた機種が稼働するわけではないパチンコ業界の不都合な真実(老釘師)

2024.01.25 / 連載

とある事情通の業界俯瞰

私は老釘師。なかなか完治しないが悪性ではなく、生命の活力になる「業界の癌」と自称している。某メーカーで長年営業部長や開発にも携わってきたが、年齢的なこともあり現在はとある遊技機開発会社でかつてのノウハウをお伝えさせていただいている老人だ。限りなく黒に近かったが、真っ黒にはならず深いグレーを維持しながら業界を乗りこなしてきた老人として、PiDEA Xでの連載枠をいただいた。不定期連載だがどうぞよろしく。

さて、「スマパチ元年」という表現が適切かはともかく、2023年を振り返ると、多くのP機e機が発売された。しかし、下記の表を見ると、海シリーズを除いて過去に「主軸機種」と呼ばれたタイトルの稼働貢献が3カ月持たない状況が散見された。いかにパチンコが劣勢に立たされているかが分かる。

◆売れた機種は使えましたか?~パチンコ編(2023年に18,000台以上販売が確認できた機種限定) 

昨今の1台あたりの遊技機価格からいっても、最低でも12週の稼働貢献は必須。償却できない機種の大量導入は、ホールの財務に影響し、結果的に遊技者に負担を与えることになる。

また全国データの機種帳票を見ると、海シリーズを除いて玉単価、ベース、千円スタート、TYなどはどこを切り取ってみても同じ「金太郎飴」状態で、この数値だけから機種の良し悪しを判断するのは難しい(建設業界から見ると何処かの公共事業の談合入札に近いかも)。比較的特賞中出玉率にばらつきがあるが出玉速度で優劣が生じるわけでもない。当然だがこれらの数値以外の要素で機種業績が決定することは明白となる。

 

※参考資料~以下の2機種は2022年~2023年にかけての2年間で主軸となり現在も稼働は維持

「エヴァ15」は昨年12月に後継機種が登場し、e機を含めると6万台導入されたことになるため、4円市場では約7万台に圧縮された。しかし設置台数シェアはいまだ1位である。ライトミドル機と合算するとシリーズ約14万台となり、4円市場に限定となるが「海シリーズ」を上回る。またメーカーが最も重視すべき「アウトシェア」はこちらも4円市場に限り、首位の座を「海シリーズ」から奪取した。

年度の新台販売台数では何度か三洋物産を超えるメーカーが出現したが「設置シェア」と「アウトシェア」は約25年の間、三洋物産の強固な牙城で逆転は困難な状況であった。また圧縮された1万台の多数は1円市場に流入し、低貸市場で寡占状態であった「海シリーズ」の中に食い込んでいる。

1円を含めた総設置台数シェアは単独では三洋物産が1位であるがサブブランドを含めるとSANKYOグループが1位となる(総アウトシェアは僅かだが三洋が首位か?)。

私見となるが今後はSANKYOグループを筆頭に、圧倒的に高い稼働で高付加価値を見出している大都技研グループが機械市場を牽引すると推測する。


◆以下の4機種は健闘したものの高い評価を得られなかった機種(販売台数1万台以上限定、ライトミドル、甘デジなどのシリーズ機種は除外) 

北斗暴凶星はもう少し高い評価を得てもよかったような感がある。最近の北斗シリーズは本命とスピンオフの区分けが困難になってきた。

一方、全国データの帳票項目はここでも「金太郎飴」状態となっている。やはり数値には表れない通常時の面白さ、特賞時や継続時に非日常的なインパクトや達成感を与えることが重要なのだろう。

難題となるがパチスロも含め遊技機メーカー各社が画期的なイノベーションを起こせばまだまだ業界は元気になるだろう。 


(著者)
「老釘師」こと業界情報通E氏。某大手メーカーで営業本部長や開発などにも深く携わった経験を持つ。現在はメーカーを去り、遊技機開発会社でかつての経験を生かしながらキャリアを続けている。

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