中小企業を変えるメタバース採用
2023.06.15 / ホール中小ホールが頭を抱える問題の1つが「人員採用」だ。高額な広告費を投下してもなかなか集まらないと悩む企業も多いのではないだろうか。
新潟県に本社を構える株式会社エム・アイ・ディジャパンは、人事採用の新しい手法として「メタバース採用」を始めた。メタバースはまだまだ世間一般的には浸透していないが、もっとも気になるのは採用ツールとして有用なのかインタビューをおこなった。
放置するだけで応募されるメタバース採用
株式会社エム・アイ・ディジャパンは「玉三郎」「ZAP」「ミッド・ガーデン」の屋号で新潟県を中心にパチンコホール8店舗を展開している。従業員数は合計で約270名(2022年12月時点)の企業だ。そして「メタバース採用」を仕掛けたのは執行役員人事部部長の堀田達哉氏である。

同氏は、株式会社ネオキャリアの提供するメタバース就活イベントに出展企業として参加し、1月27日と28日に実施された際には179社が出展。そして6月1日から第2回目のメタバース説明会が始まっており、今回も参加しているという。
メタバースとはメタバースとは、インターネット上の仮想空間のことだ。空間や物をデジタル化し再現しており、操作を行う人は自分自身の分身となる「アバター」で活動を行う。
イメージとしてはキアヌ・リーヴス主演の映画「マトリックス」や、細田守監督の「サマーウォーズ」に登場する、OZ(オズ)のような空間がまさしくメタバースである。
こうした横文字が耳なれず「ちょっと手間だな、操作も複雑そう」「参加するには専用機器の準備も必要なんだろう」といった印象を持つかもしれない。しかし、専用のデバイスは必要なくスマホにアプリをダウンロードするだけで参加できるのだ。
企業側は、学生に説明したい情報や資料をアップロードするだけで準備OK。開催期間中は学生がメタバース上にいつでも、どこでも自由に出入りすることができるため、時間を問わずに企業説明ができるという仕組みだ。出展企業側もアバターで参加可能で、リアル説明会のように参加した学生とチャットツールなどを使ってコミュニケーションを図ることもできる。

人事部にとって1番気になるのは、問い合わせがあるのかないのか、採用ツールとして有効なのかということだ。メタバース採用について早速伺った。
「24卒を対象にした1月27日と28日の結果でいうと、2日間で3,666回のアクセス数があり、のべ300名の学生に弊社のブースへ訪れていただきました。その結果、応募件数が10件です。今回はメタバース説明会への参加自体が無料でしたので、費用対効果としても抜群でした。学生が資料を読んで気になればその場で応募いただけるのでかなり強いツールですね」と語る。
また、メタバース上で採用を行うメリットとして次のように語った。
「通常の就職説明会や採用面談ってどうしても学生側に羞恥心あって質問できなかったり、自身の評価につながるような質問に偏ってしまいがちですよね。しかしメタバースとなると、表示されるのは仮名で、姿もアバターですから、Z世代にとっては、かなりゲーム感覚に近い。そういう場所ですから、学生側が踏み込んだ質問をしてくれるんです。
中には『なんでパチ屋が出展してんだ』『給料良いだけだろ』みたいな、出展側としてはかなり厳しい踏み込まれ方をされるんですが、これをちゃんと受け取って説明すると学生もちゃんと意図をくみとってくれて、本音で話せるきっかけが作れる良い機会が生まれるんですよ」
就活サイトや転職エージェントに募集をかけたとしても、学生の目は上場企業や大手企業ばかりに止まってしまう。だから単にメタバースというブルーオーシャンに飛び込んだワケではない。同氏のWEB人事戦略はこれまでにも多岐にわたっていた。
完全WEB移行した採用活動
さて、「SNS」と「パチンコ業界」というワードを並べると何を想像するだろうか。多くはホールスタッフや店舗のPRアカウントを思い浮かべがちだろう。だが、堀田氏は違う。自社の採用活動の場所として活用を始めたのだ。現在はTwitter・TikTok・Instagramの3つのSNSで2年間の活動を続けているという。
「SNSという特性上、無料で採用活動ができる強みを生かしてきました。2年前から運用を開始を始めたんですが、当時はコロナ期間で、企業も学生も混乱していたこともあり多くの就職サイトで情報が取得できずにいたところに目をつけたんです。するとアグレッシブな学生たちが『1on1させてくれませんか』『お話し聞かせてください』という声があったり、学生団体からアプローチをもらって、15人と面談ができました」
採用できなかったものの、今の学生たちの発想や動き方を把握する上で貴重な経験になったと同氏は語る。コロナ化を経ていき、社会はオンライン化していった。そこで次に目をつけたのが「メタバース」という運びだ。
「実は3年前から弊社では就職説明会とリアルの合同説明会への参加はすべて辞め、完全にWEBとSNSへ移行しました。確かにお金をかけて、リアルの説明会をやり続けることも必要です。しかしリアル説明会を重視する企業さんほど、(学生に)会った、○人に内定を出して、辞退されたという過程に固執しています。それでは考え方が古いため、思い切って人事採用をWEBだけの方向へ舵を切りました」
自社の手の内を明かすことはどんな企業にとってもハードルの高い内容だ。しかし「同じ境遇に立つ、地方の中小企業の役立てるのならば」と快く取材を引き受けてくれた。
6月より第2回目のメタバース採用は始まっているものの、6月後半の出展枠への応募はできるとのこと(問い合わせは株式会社ネオキャリアへ)。資料をアップするだけで採用への応募がくるとなれば、人事部にとってそんなに美味しい話はないだろう。大手パチンコホールが参入する前の今がチャンスだ。
