この企画でなぜ「OK」がでたのか?
パチンコ・パチスロの主流といえばアニメやゲームとのタイアップだ。しかし新台情報を見ると時折「変な台」がリリースされている。ここで気になるのはいったい誰が「変な台」を企画し、誰が承認しているのだろうか。普通のプレゼンでは通りえない変な台の企画がどのように会議を突破し、実現できたのか。開発の裏側を探る。
豊丸産業株式会社の企画第2課プロデューサー若林さんに聞いた
高須の裏側にあったありえない会議
PiDEA編集部(以下略編) :早速なんですが、「P yes! 高須クリニック(以下P高須)」が企画会議を通過するイメージができないんですが、どんな会議をして案を通したんですか⁉︎
企画2課 プロデューサー 若林さん(以下略若):弊社ではまず、企画本部が集まって、それぞれの企画部から案出しをするんです。そこで初めて高須院長の名前を出しました。豊丸はみんな良い意味で感覚が麻痺しているので、「いいんじゃない?」っていう反応もあったし、「(王将みたいな)食べ物系コラボじゃないけど大丈夫?」みたいな斜め上からの反応もありました。でも今考えると「パチンコ台の企画は話題をつくってなんぼ」ってところもあるので、悪い要素がまったくなかったんですよね。
編:あれ?思ったよりもしっかり会議してるんですね。
若:それはもちろんそうですよ(笑)。それで企画本部の会議を通ると、制作の決済にあたる偉い人会議で発表します。
編:いわゆる、役員会議ってやつですかね?
若:そうです。最終的には社長のゴーが出て機種の制作が始まります。P高須は役員会議の事前に社長に前もって話を振っていたので、悪い印象はなかったですね。「あの人ならいいんじゃない?」といった感じでスンナリOKがでました。当時は知らなかったんですが、高須院長と社長が同じ高校出身で驚きましたよ。ただ、当日プレゼンをしたディレクターがやらかしたんです。
編:というと何があったんですか……?
若:プレゼン資料はディレクターが作って、もちろん私も事前に目を通したんです。当日ディレクターが持ち込んだ資料は、内容はそのままでしたが、役員に擦り込みを入れようと、アドリブでスライドをめくる度に「高須クリニック」のサウンドロゴを鳴らすようにしたんですよ。プレゼン中はもちろんのこと、指摘を受ける時に「あのページのあの部分が〜」とか言われてページを戻すときにも、部屋中に轟音でサウンドロゴが鳴り響くんです。
編:めちゃめちゃシュール(笑)。
若:正式な会議の場なので参加者は全員、大真面目なんですよ。でもあまりに音が鳴るもんだから役員は「分かったから、もういいって」といった反応もありましたが、無事承認され制作がスタートしました。
編:そもそも高須クリニックの版権自体は、自社で直接交渉しにいったのですか?
若:いえ、高須クリニックはある協力会社さまから紹介いただきました。もともとドラム機とのセットでやらないかと提案されていたんですが、個人的には版権だけ取得して好きなように制作したかったんです。それから協力会社さまとの交渉が始まって、最終的には弊社のことを十分理解してくださっていたので「まぁ、この版権を面白くできるのは豊丸さんくらいだから」という形で決着しましたね(笑)。
編:豊丸さんだから成り立った信頼関係ですね(笑)。やっぱり企画課のみなさんは変な台を考案するんですか?
若:自分が所属する企画部には当時3グループあったのですが、1つは液晶・電役機部門、もう1つは王道セブン機部門、そして私の所属していた、なんでもありの飛び道具系の部門です。もちろんP高須の制作は私たちが担当しました。
編:変な台の精鋭たちということですね。どうやってP高須のようなアイデアが豊丸さんでは生まれるんでしょうか?
若:一般企業でも朝礼ってよくやりますよね。僕らのグループはそこで大喜利をやってアイデアを出したりします。例えばお笑い番組みたいに「豊丸が『麻雀系』の新しいリーチ演出を発表しました、いったい何?」といった感じです。それにメンバーが回答するみたいな流れでやってます。他にもあいうえお作文をしたりして、自分たちで笑い合っているネタを台に落とし込んだら楽しいんじゃないかって考えるところからアイデアが生まれていきます。
編:そこからプラスで話題性だったりブランドイメージを重視していくんですね。
若:そうですね。台を作るに当たっては、やっぱり他のメーカーにない豊丸ならではの持ち味を生かしていきたいので。
編:これからも変な台に期待していいですか?
若:絶対笑わせますよ、任せてください。
あと語り
豊丸さんならではのノリと勢いで作った結果バズった台だと思っていたら、しっかり会議しているんですね。企画・制作陣が突っ走って、PすしざんまいとかPワイルドロデオを出してる特殊なメーカーさんかと思ってました。
P高須は演出面でもオマージュやぶっ飛んだ演出がもりもりだけど、実は意外な苦労が多かったそうな。タイアップ機種は版元のイメージを損なわないよう配慮するけど、高須クリニックは医療機関ということもあって、医療機関の広告規制にも配慮が必要だったみたいです。演出ではリーチ当落の演出が難しくて「手術失敗」のような演出も検討してたらしいですが、冷静に考えてとりやめになったんだとか。デモがあればみたかったなぁ……。
オマージュ演出と言えば、他メーカーさんから怒られないのか伺ったところ、P高須含め今まで一度もないそうです。若林さん曰く「おそらくですけど豊丸だからという理由で見逃していただいてるんですかね」と仰ってて、失礼ながら、それはあるかもと思ってしまいました(笑)。