[寄稿]パチンコ業界への知識も知性もない池田氏。記事の内容に関して「訂正」または「謝罪」を(安達夕)

2020.03.09 / 新型コロナ

3月3日、「アゴラ 言論プラットフォーム」というニュースコラムサイトに、「休業させるなら学校よりパチンコ」という記事が掲載された。筆者は、アゴラ研究所所長で学術博士である池田信夫氏。

(参考:休業させるなら学校よりパチンコ屋

曰く、新型コロナウイルスの感染拡大を抑え、死亡リスクを減らすためには、学校よりパチンコ屋を閉鎖したほうが良いとのこと。

この記事は、アゴラサイト内ばかりでなく、yahooニュース!に転載されるなど、多くの耳目を集めているが、記事には根拠のない憶測と世論をミスリードするデマ的な内容が多く散見される。

本記事では、池田信夫氏の記事の問題点を提示したい。

 

問題点その1/パチンコ店には高齢者が多いという「事実」

池田氏は、パチンコ店に高齢者が多いということを、財団法人統計情報センターの「生活行動からみる高齢者の行動特性について」というレポートから「図4 趣味・娯楽の種目別活動規模」という下の図を用いて、パチンコ店に高齢者が多いと説明している。

では高齢者の集まる場所はどこだろうか。統計情報開発センターの調査によれば、高齢者の活動規模は次の図のようになっている。

 

 

このうち不特定多数の集まる閉鎖空間で行われるのは、パチンコ・カラオケ・劇場である。特にパチンコ屋は空気が悪く、感染を拡大する「ハブ」になりやすい。2月18日には和歌山県で1人、パチンコ屋に立ち寄った人が新型コロナに感染している。

したがって優先順位としては、学校よりパチンコ屋を閉鎖したほうが死亡リスクを減らせる。パチンコ屋は風俗営業法の対象なので、警察が営業中止の勧告を出すこともでき、経済的な影響も大きくない。

私は法的根拠のない経済活動の自粛には反対だが、多くの公共施設を広く自粛させるより、警察が風営法にもとづいてパチンコ屋一時的に休業させるほうが実害が少なく、一斉休校より費用対効果が高い。今からでも対策を考え直すべきだ。

しかし、レポート全体を読めば、これは「パチンコに行く高齢者の行動頻度」に関連する図であり、同レポート内の「パチンコに行く高齢者の数」を表す図は、下の「図3 趣味・娯楽の種目別行動者率」である。この図を見る限り、パチンコに行く高齢者の絶対数は、他の趣味・娯楽に比べ「少ない」と評されるべきであろう。

 

財団法人 統計情報研究開発センター 中村華津子/坂部裕美子
「生活行動からみる高齢者の行動特性について-社会生活基本調査の匿名データを用いて-」

 

問題点その2/記事内「2月18日には和歌山県で1人、パチンコ屋に立ち寄った人が新型コロナに感染している」いう文について

事実誤認もはなはだしい。これは新型コロナウイルスに感染した人が、和歌山県のパチンコ店にも立ち入っていたということが、後日保健所から当該店に伝えられたものであり、パチンコ店で感染が起こったわけではない。また当該店は、即日で店舗を臨時休業し、全店の消毒を行う一方、全従業員の検査を行い、陰性が確認されるまで営業を止めている。

このことについては、報道と当該店からの告知を確認すればすぐに分かることであり、池田氏がこのことを正確に把握していないのであれば怠慢、知ってなおあのように書いたのであれば、悪意のあるデマである。

 

問題点その3/記事内「パチンコ屋は風俗営業法の対象なので、警察が営業中止の勧告を出すこともでき、経済的な影響も大きくない」という文について

開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。風営法に違反しないかぎり、警察が一旦許可を出した店舗の営業を中止させることはできないし、経済的なダメージは業界全体の売上高や、そこから算出される税金、雇用規模を考えるとき、甚大であろうことは疑いようがない。

池田氏は、東京大学の経済学部出身であり、経済産業研究所上席研究員なる経歴を持っているが、これが経済のエキスパートだとは到底思えない。

 

少なくとも上記3点について池田氏は、速やかに訂正記事や業界に対する謝罪文を掲載すべきであろう。パチンコ業界に対する知識ばかりか、知性すらも疑われる池田氏の記事は、一顧だにする価値もない。

(文章/案達夕)

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