2021年1月末に待ち受けている旧規則機の完全撤去まで、あと少しで残り1年になろうとしている。必須となる新規則機の入れ替えは、業界が生き残るために現在抱えている最大の課題といっていいだろう。
どんな機種から、どのタイミングで入れ替えていくべきか。入れ替えによって、どんな影響が発生するのか。また、今後はどんなスペックに期待が持てるのか。新規則機への完全移行にまつわる考察をシリーズとして追う。
今回のテーマは、パチンコの低貸分野について。日々営業するうえで決して無視できない存在の低貸パチンコだが、入れ替え対応は4円ばかりで、低貸はないがしろにされているホールも少なくない。ところが、実は新規則への転換期の今こそ、しっかりと向き合うべきなのだ。
2018年度の業界データ各種から試算してみると、パチンコ市場における低貸の設置シェアは約45%。低貸のなかでは1円の割合がもっとも多く、市場の約33%を占める。平均アウトも1円がトップで、4円より8000個ほど多い。粗利の面ではもちろん4円に劣るが、その分、多くの店舗では機械代を削減しながら運用していることだろう。
1円に代表される低貸ユーザーは、アウトと粗利の比率からも推察される(4円よりもアウトに対する粗利比率が高い)ように、「勝負重視型ユーザー」よりも「時間消費型ユーザー」が圧倒的に多い。現在の旧規則機から新規則機への移行期間においては、この「時間消費型ユーザー」が重要なポイントとなる。
というのも、新規則機が旧規則機よりもスペック性能で劣ることを考えると、「勝負重視型ユーザー」が本格的に新規則機を受け入れるのは旧規則機が撤去されてからになると予想され(それでも期限ギリギリで旧規則機を撤去するのはさまざまなリスクがあるため、段階的に入れ替えていく必要があるが)、旧規則機が多く残っている現状では「時間消費型ユーザー」のほうが新規則機を受け入れやすいからだ。
ところが、そんな重視すべき「時間消費型ユーザー」のメイン市場である低貸を取り巻く状況は、危うさを感じさせるものとなっている。
問題点①4円よりも圧倒的に新規則機への移行が進んでいない
パチンコ市場全体で新規則機への移行があまり進んでいないのは各所で指摘されているとおり。「あと1年」と考えているホール関係者はまだ多いが、上記のスケジュールを見ても、実際はそれほど猶予がないことがわかるだろう。
中でも低貸の新規則への移行は進んでおらず、4円と低貸それぞれの新規則機の設置比率は4円が34.9%であるのに対し、低貸は約21.9%。より新規則機が受け入れられやすい土壌があるのに、その設置比率は4円よりも低い現状がある。
問題点②認定機が多く、維持費が増加する
低貸に旧規則機が多く残存していることは、新規則機への移行リスクだけではなく、維持費の問題にも関わってくる。
2018年2月1日からの新規則施行に伴い、とくに低貸の旧規則機は前倒し認定を取得した機種が多くなっているため、それだけ部品や点検にかかる費用は増大してしまう。
2021年1月までの期限を見据えて、高い維持費を払ってでも認定機を使い続けたほうが得なのか、それとも新台の新規則機に入れ替えるべきなのか。さらには上記の入れ替えスケジュールに猶予がないことも踏まえて、検討すべき課題だろう。
問題点③低貸ユーザーのニーズを満たせていない
前述したように、低貸には「時間消費型ユーザー」が多いが、この「時間消費型ユーザー」は勝負へのこだわりが薄い分、ゲーム性や演出面に対するハードルが高い傾向にある。
しかしながら、低貸への導入は4円からのスライド移設が多く、1円に導入されるのは人気がない機種か、旬が過ぎている機種ばかりといったケースをよく見かける。
果たして、それで「時間消費型ユーザー」に適した機種の供給ができるのかといえば、疑問を抱かざるを得ないだろう。
このように多くの課題を抱える低貸市場だが、逆にいえばきちんと整備することで稼働アップ、運用性アップの伸びしろがあるということでもある。
現在、1円パチンコのジャンル別平均シェア、平均アウトのトップはいずれも甘デジ。低貸のメインが「時間消費型ユーザー」のため当然ではあるのだが、注力すべきは何といってもこの分野だろう。その中でもとくに、比率の高い中高年層に向けた機種選択、運用方法が重要になってくる。
では、具体的にはどういった機種が当てはまるのか。
「低貸」「甘デジ」「時間消費型ユーザー」「中高年層」というキーワードを考えたとき、やはり一番に浮かんでくるのは甘デジ海物語シリーズ、いわゆる「甘海」だろう。
定着率の高い海ユーザーが流動客・浮動客を取り入れる
馴染みのあるコンテンツを繰り返し遊技する中高年層、特に「甘海」のユーザーは「機種」への定着だけでなく、さらに「店」への定着も強いという特徴がある。
上手く取り込んで常連になってもらえれば、なかなか他店に浮気しない。また、常連同士でコミュニティーを形成し、他のユーザーも巻き込んでくれることも多い。まさに優良顧客の筆頭といえる存在だ。
そんな常連客を定着させるというのはどんなビジネスでも基本だが、特にパチンコ市場においては、常連の定着が稼働の土台を作り上げ、そのベース稼働が流動的・浮動的な客を取り込む要素となる。
市場状況が猛スピードで変化していく今後に備える意味でも、常連客のさらなる囲い込みのために「甘海」により注力し、その島を中心として他分野や島の整備を進めていくべきではないだろうか。
浮動客定着の大黒柱「甘海」に潜む認定機問題
とはいえ、そんな低貸の大黒柱となっている「甘海」にも、さまざまな問題が残されている。
現在、低貸のみならず4円も含め、残存している旧規則の甘海は市場全体で28万台以上にのぼると推定される。相当な台数だが、旧規則である以上、約1年後までには入れ替えなければならない。
さらに「甘海」は長期稼働することもあって、認定機や地域によってはみなし機も多数残存している。認定機は前述のとおり、維持費の増大を招く可能性があり、みなし機は残しておくこと自体がリスクを伴う。
新規則機導入の土壌が整っている低貸、そんな低貸の中心ながら危機が迫る「甘海」。2021年1月末までたたでさえ猶予がない中で、今後はオリンピックや中古機駆け込み需要などイレギュラーな出来事も予想される。一刻も早く手を打っておくに越した事はないはずだ。