コロナ禍というかつてない危機の中で発足した西村新体制。
長期にわたった営業自粛で大打撃を受けたホールに、旧規則機の段階的撤去が追い討ちをかける。
生活様式やものの考え方、社会のあり方が大きく変容するニューノーマル時代を乗り切るために、パチンコ業界は大きな変革と固い結束を迫られている。
8月6日の臨時理事会で日遊協の7代目会長に就任した西村拓郎氏。就任のあいさつで「日遊協の改革」を前面に掲げたニューリーダーは、横断的組織のあり方をこれからどのように変え、山積する業界課題にいかに立ち向かって行くのか。
9月11日に行われた新会長就任の合同記者会見と、日遊協広報誌9月号に掲載された西村会長インタビューをベースに今後の政策と新体制での意気込みを探っていく。
「私が会長を務めさせていただくのであれば、しっかりと改革をしていくことで役割を全うしていくつもりです。もしかしたら、あるいは本当に日遊協をぶっ壊してしまうかもしれないことをご理解いただきたい」
旧規則機の「撤去問題」で庄司孝輝会長が7月30日付けで引責辞任したことを受け、次期会長を互選する臨時理事会が開かれた8月6日、全会一致で新会長に選任された日拓ホーム株式会社の西村氏はウェブ会議に参加した理事に向けて、力強くそう宣言した。
その上で、こう付け加えている。
「それくらいの覚悟を持って臨んでいくつもりです。ご異議のある理事の方がおられるなら、今ならまだ間に合いますので遠慮なくこの場で動議を出していただきたい。いかがでしょうか?……。いらっしゃらないようなので、改めて全員の総意によりご信任いただいたということで、今後の日遊協改革を力強く進めていきます。私は改革が実現できない時、あるいは当協会や業界にお役に立てないという場面になった時は、いつでも責任を取って辞任する覚悟で臨んでいきます」
並々ならぬ決意と覚悟がうかがえる所信表明だが、ここまで日遊協改革への意欲が強くなったのは今年6月の通常総会以降だという。
日遊協広報誌9月号(以下広報誌)の会長インタビューで西村氏はこう話している。
「東京都・関東支部長の立場だった時には、日遊協全体、業界全体のことを考えなければいけないという自覚はそれほどなかったのですが、6月の通常総会で筆頭副会長に選任された後、『日遊協の在り方・改革PT』を立ち上げ、改革を進めていく立場となり、自然と視点は変わっていったように思います。副会長になってからの2カ月半、できる限り業界の先輩方を訪問して話を聞くことで日遊協の在るべき姿や、やるべき役割が見え始めた頃でした」
「日遊協の在り方・改革PT(以下略在り方・改革PT)」とは、「日遊協の在り方と使命について再確認を」という会員の多くの声を受けて立ち上げられた。委員は新経営者会議(右下カコミ参照)のメンバーを含めて若手を中心に14人が参加。室長にマルハンの韓裕副会長、リーダーに西村氏、アドバイザーを中商の中村昌勇副会長と三宝商事の樋口益次郎副会長が務める。
9月11日の合同記者会見(以下略記者会見)で西村氏は次のように語っている。
「7月21日に立ち上げた在り方・改革PTは7週間で6回、ほぼ週一ペースで開催しています。そこでは若手を中心に改革のテーマを自由に出してもらっています。その中で長期的と短期的、2つの時間軸で改革しなければいけないテーマを絞り込んでいきます。そうすることでたくさんあるテーマに優先順位をつけながらPTが中心となって改革を進めていくつもりです」
日遊協活動の柱の1つとなった新時代を担う若手経営者や幹部が学び、ディスカッションする新経営者会議と、そのメンバーを含めた若手が参加する在り方・改革PT。これについて西村氏は広報誌でこんな感想を述べている。
「新経営者会議も在り方・改革PTもそうですが、参加者には『パチンコという遊技産業の世間からの見られ方を変えていきたい』という強い思いを持った方が非常に多いんです。(中略)パチンコ業界に関わる人が『我々の仕事は社会に役立っているんだ』という確固たる自信の持てる産業にしていきたいという思いがメンバーの心の中にあって、私も深く共鳴するところです。私が望むこと、というより皆さんと共に業界の課題に取り組んでいきたいと考えます」
では具体的にどのような改革を進めていくのか。
記者会見で「抱負や指針、意気込み、重点的に取り組んでいきたいこと」を聞かれた西村氏は次のように答えている。
「日遊協は平成元年の設立から32年経っています。改革は常に行っていかなければなりません。在り方・改革PTを立ち上げた時も、改革はエンドレスに行っていくという方針を示しました。今は改革のスタートラインに立ったのではないかと思っています。日遊協はホール団体ではなく、横断的組織です。ホール、メーカー、販社に加盟していただいているのでそれぞれの立場に立った取り組みを行っていきたい。その意味で改革の目玉として、横断的組織での会議、『加盟団体会議(仮称)』を10月中にも立ち上げ、そこでいろんな議論をすべきだと考えています。繰り返しますが日遊協はホール団体ではありません。ホール、メーカー、販社それぞれの立場に立たないといけないというのが本来のあるべき姿であり、そこに立ち返って強みをブラッシュアップしていきます」
さらに短期的改革のもう1つの柱として、10月中にも「財務委員会」を立ち上げるという。
「日遊協は元来、個社の企業からも加入してもらっている団体からも会費をいただいており、会費収入で成り立っている団体です。であるにも関わらず、取扱主任者講習による事業収入を運営費として使ってしまうのは、健全な団体とは言えないのではないか。そこで原点に立ち返り、会費でしっかり運営できないだろうかと。収入の中身と運営とをしっかり照らし合わせていく。また、団体加盟をしていただいている企業の中には、個社で加盟しているケースもあり、ダブルで会費を出している企業もあります。それに対する不満の声も出ています」
これまで精査をしたことがなかった、お金の流れや運営の健全化に財務委員会を立ち上げることで踏み込んでいく考えを示している。
そして、長期的改革についてはこう語っている。
「キャッシュレス化、管理遊技機やメダルレスなどいろいろとあります。パチンコ業界ではいつまでも現金を扱っていますが、SuicaやQRコードなどが普及する世の中の流れに遅れているのではないかと感じています。ですからそこに手をつけていきたいと。これは法改正などを伴う問題でもありますが、中長期的なテーマとして取り組んでいく予定です」
在り方・改革PTにおける改革の中身について、西村氏は広報誌のインタビューで次のようにも話している。
「『日遊協内部の改革』と『業界の改革』という2つの側面があります。この両面について考えをまとめていくのですが、その際にも、このPTだけで結論を出すのではなく、その素案をベースにして理事の皆さんから知恵をいただきたいと考えています。理事がそうした課題についてしっかり議論するということ。それこそが、団体加盟の方、有識者の方が理事にいらっしゃるという日遊協の強みが生かせる部分であると考えています。日遊協が立場の違いを越えて本音で議論できる場となっていければと思います」
日遊協の改革と業界の改革。この2つを同時進行的に進めていくにはホール、メーカー、販社が加盟しているという強みを生かせることが大きな意味を持つ。
だからこそ西村氏は会見で改革を進めていくにあたって「日遊協はホール団体ではなく、横断的組織である」ことを繰り返し、強調したのである。
全日遊連、日遊協、同友会、余暇進、PCSAを総称してホール5団体というように近年はホール団体としてのイメージが強かった感がある日遊協だが、改めて横断的組織であることを強調する西村氏は会見で「元々、日遊協は横断的組織です。創立時こそ、ホール団体でしたが、今では横断的組織として日工組、日電協、全商協、回胴遊商も団体加盟されています。であれば、それぞれの立場をしっかり守り、それぞれの立場を考えるのが日遊協ではないか。その基本に立ち返るということです」と語った。
日遊協新体制(○印は新任と昇任) | ||
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会 長 | ○西村拓郎 | 日拓ホーム(株) |
副会長 | ○大久保正博 | 大丸商事(株) |
同 | 韓裕 | (株)マルハン |
同 | 榎本善紀 | 京楽産業.(株) |
同 | 小林友也 | (株)北電子 |
同 | 樋口益次郎 | 三宝商事(株) |
同 | 平本直樹 | (株)プローバ |
同 | 福山裕治 | (株)フェイスグループ |
同 | 中村昌勇 | (株)中商 |
同 | 高谷厚之 | (株)リンクス |
専務理事 | 堀内文隆 | 事務局 |
常務理事 | 浜田昭文 | 事務局 |
理事 | 飯塚邦晴 | (有)新日邦 |
同 | 井寄義孝 | グローリーナスカ(株) |
同 | 梅村尚孝 | (株)サンセイアールアンドディ |
同 | 大泉秀治 | (株)オーイズミ |
同 | 岸野誠人 | 東和産業(株) |
同 | 篠原菊紀 | 公立諏訪東京理科大学 |
同 | 谷口久徳 | (株)ニラク |
同 | 知念安光 | (株)安田屋 |
同 | 都筑善雄 | (株)善都 |
同 | 堤 義成 | ラーネッド総合法律事務所 |
同 | 東野昌一 | (株)平成観光 |
同 | 吹浦忠正 | 社会福祉法人さぽうと21 |
同 | 福井 章 | (株)ボネール |
同 | 美山正広 | (株)正栄プロジェクト |
同 | 柳 秀明 | (株)日進 |
同 | 山田久雄 | (株)九州エース電研 |
同 | 吉村泰彦 | JCMシステムズ(株) |
監事 | 加藤義久 | (税)日本みらい会計 |
監事 | 畠山和生 | (株)大喜屋商会 |
ホールとメーカーと販社が加盟する組織の強みについては、「業界の大きな課題としてファン人口の減少があるが、ファンの拡大に向けて取り組むべきことは」と会見で聞かれて、こう答えている。
「パチンコ業界だけではなく、少子化が進んでいる以上はどんな産業でも参加人口が減少するのは仕方ないことかなと思います。ただ、これはパチンコ人口増とは切り離して考えなければいけないことかもしれませんが、来年は管理遊技機やメダルレスでの楽しい仕掛けを期待したい。日遊協は横断的組織ですから日工組や日電協などと一緒にどんなものが受けるのか、ファン拡大につながるのかということを協議しながら作っていこうと思っています」
また、広報誌のインタビューではコロナ禍でセーフティネット保証5号の対象業種となったこと、旧規則機の経過措置が延長されたことを挙げ、いずれも業界6団体(全日遊連、日遊協、日工組、日電協、全商協、回胴遊商)が結束し、行政に掛け合って実現できたもの。これをどのように受け止めているかと聞かれ、こう答えている。
「この2つがあるおかげで営業を続けられるホールも多いと聞いています。全機連(メーカー、販社など供給系団体の連合体)にも協力いただいた上で実現できたことであり、このようなパチンコ業界が危機的状況にある時には、今まで以上に日遊協としての役割を果たし、機能し、迅速に取り組める組織づくりを進めていきたいと思っています。経過措置の延長についてはメーカーと販社の協力がなければできないことです。日遊協は横断的組織であり、ホール、メーカー、販社、関連企業、それぞれの立場で一緒に考えて歩んでいきたい。こうして一丸となれるのは日遊協の強みだと考えています」
横断的組織の強みを生かし、管理遊技機やメダルレス機の開発協議へ参画する。また、業界が危機に直面した時には、団体間それぞれの意見を集約し調整する。そして、必要であれば行政に掛け合う。そうした役割を果たしていきたいとの意気込みを示している。
そうした役割をスムーズに進めるにはホール組合団体との連携も不可欠だ。全国のホールの9割以上が加盟する全日遊連との関係は、西村氏の会長就任で今まで以上に良好になりそうだ。
「全日遊連の阿部理事長には私が会長に就任したことを喜んでいただいています。また、これから一緒に業界の改革をやっていこうとの声もかけてもらっています。実際に、私が今年の6月に副会長になって、在り方・改革PTを立ち上げた頃からいろんな相談をさせていただいています。これまでも全日遊連の理事長室には何度もお伺いしていて、ざっくばらんに相談できる間柄です。その中で一緒に取り組んでいける課題も多く、かつ共同歩調も取れると感じています。また、新団体や余暇進とも密に連携をして業界全体の未来を語り、改革をしていければと思います」
10月19日には同友会とPCSAが合併し、新団体「MIRAIぱちんこ産業連盟(略称MIRAI)」が発足する。全日遊連とMIRAI、余暇進とともにホール関連4団体として、今までとは異なる役割や取り組みが期待されるところだ。
会見ではコロナ禍で散見された根拠のないネガティブ報道やバッシングに対する見解と対策についての質問も出た。これについては全日遊連などが当該メディアに抗議したことに加え、パチンコ・パチスロ産業21世紀会で組織的に対応していくことが先般決まったばかりである。
これに対する西村氏の考え方は次のようなものだ。
「何か事ある度にネガティブなバッシングを受けやすい業界であることは認識しています。ただそれに過剰に反応したり、嘆き悲しんだりするのではなく、私たち自身がきちんと襟を正して社会に認められる業界に育てていかなければならないと思います。今回、コロナ禍での休業要請に従わなかった一部のホールのために、全体のイメージが悪くなったのはとても残念ですが、業界側に原因がある部分があり、その意味でも改革をしていきたい。新経営者会議で若手の話を聞くと、子どもの頃に家がパチンコ店であることで引け目やマイナスイメージを持ったという人が多いのです。今親になってそんな思いを子どもの世代に引き継がせていいのか、という気持ちは強い。自分たちが襟を正し、どれだけ社会に貢献し、イメージをアップできるのかをしっかり考えてやっていきたい。マルハンさんなどはリーディングカンパニーとして業界のイメージを変えてくれた企業です。その企業が副会長として活動してもらっているというのも大きな支えになっています」
業界バッシングを目的としたネガティブ報道や事実誤認の報道については厳しくチェックし、戦略的な広報活動を進めてく一方、業界自らが襟を正し、社会的認知を高めていくための改革と活動に注力していく姿勢を強調している。
また、会見では一部のホールによる誓約書違反、または未提出が問題視されている21世紀会の決議に基づく旧規則機の撤去への対応にも質問が及んだ。
「6月の通常総会で庄司前会長が会員に向けてお願いをし、本日の臨時総会でも新会長の立場で皆さんにお願いをしました(右上カコミ参照)。決議に基づく高射幸性遊技機の撤去問題については非常に重要だと思っており、文書でお願いするだけではなく語りかける。1軒でも多くのホールに業界の明るい未来のために今やらなければいけないことをしっかりと説明していきたいと思っています」
また、広報誌でも撤去への取り組みについて、「ペナルティーありきという考えでは必ず歪みが生まれると思っています。強い風を吹かせる『北風政策』ではいけない。本来ならば21世紀会決議がなくても、業界の共通認識としてその重要性や趣旨を理解していれば、業界全体で我慢しなければいけない、ということも分かっているはずです。ペナルティーありきではない施策も必要だと考えています」と語っている。
こうした見解からも分かるように西村氏は「組合員資格停止処分」や「メーカーによるホールとの取引内容の見直し」、「中古機の証紙発給保留」といったペナルティーを優先させる手段には懐疑的であり、歪みや禍根を残さないようにしっかりした説明をし、納得してもらうという平和的解決策を重視しているようだ。
会見では、妻である神田うの(本名:西村うの)や創業者である父・昭孝氏にも話が及んだ。
日遊協会長になったことに「奥さんはどんな反応だったか」と聞かれた西村氏は、ときおり笑顔を見せながらこう語った。
「妻からも父からも『引き受ける限りはしっかりとやれ』と言われました。会長職に就いたこの1カ月で1年くらい経ったような感覚です。打ち合わせやあいさつなど想像していたよりも盛りだくさんで、家族のサポートなしではできません。それは大変ありがたく思っています。今日も『総会があり、その後に記者会見があると妻に伝えたらネクタイを選んでくれました。ジャケットのラペルピンはパチンコ玉なんですが、縁起のいいもので身につけてきました。13年前に結婚した時、パチンコ玉で妻が指輪とピアスとネックレスを作ってくれました。妻は喜んでいましたよ、しっかりやれと応援してくれました』
また、「尊敬する人物は」と聞かれた西村氏は即座に「父です」と言明し、こう話した。
「日拓は父が33歳で創業した会社で今年55年を迎えます。父は今88歳ですが元気にやっています。そんな父も日遊協の支部長と副会長に就いていた時期があります。何はともあれ、持っている知識、経験、思想、すべて父から教わったことです。私は2代目社長であり、名前に日拓の拓をもらっているくらいですから、会社が好きで仕事が好きですから尊敬するのは父です」
さらに「座右の銘」を聞かれ、「好きな本に『人は、人を浴びて人となる』があり、その言葉が好きで、いろんな人を浴びながら人間形成をしようと心がけています」と語った。
−依存問題対策、旧規則機の段階的撤去、コロナ禍による長期休業からの業績回復とニューノーマルへの対応、危機的状況の打破と環境改善のための政治や行政へのアプローチ。パチンコ業界が直面する課題はもはや個々の店舗はもちろん、組合団体個別で対応できるレベルを超えている。
「横断的組織」の強みを生かし、業界団体の連携と改革を推し進める日遊協の西村会長、組合団体の垣根を超えた団結で業界再生を図る全日遊連の阿部理事長、そこに未来を創造する新団体MIRAIが加わることで、ホール団体間、ひいては業界団体間(パチンコ・パチスロ21世紀会)の風通しと結束はかつてないほど強まるだろう。
パチンコ業界を未来に引き継げる娯楽産業として改革・再生できるか。リーダーたちの手腕が問われている。