続けるも地獄、閉めるも地獄/営業続行ホールインタビュー

2020.04.22 / 新型コロナ

4月16日、政府は緊急事態宣言の対象地域を全国に拡大した。この影響はパチンコ業界にも波及し、全国各地のホール組合からは休業を促す通達が出されているが、法的に取り締まるものではなく、あくまでも「休業要請」の範疇である。しかし、その要請を受けて、大手グループ企業を中心に休業に入るパチンコホールは多く、大阪や福岡では9割近くの店舗が休業に入っているという情報もある。

そんな中で、注目を集めてしまっているのが営業を続けているホールである。朝のニュースやワイドショーでは、営業続行ホール前に取材陣が集まり「県外からパチンコ客が押し寄せる」と大々的に報じている。また、TwitterなどSNSでは、店舗前の入場列や店内の様子が晒され、パチンコホールと来店客が批判の的になっているのが現状だ。

その店舗で働いている従業員たちも、感染するかもしれない恐怖やこのご時世でも営業を続けるリスクを感じながら働いていることは想像に難くない。今回、編集部では匿名を条件に、都内で時短ではあるが営業を続けている200台クラスのホール店長に話を聞く機会を得た。大手グループ企業ではない同店だが、果たしてどのような考えで店舗営業を続けているのだろうか。


Q:営業継続に踏み切った理由を教えてください。

A:もちろん経営者の判断もありますが、自分も(続けるべきという)判断をしました。アルバイトの子たちに対する補償もできないですし、国や都から受けられる補償やサポートだけでは家賃も払えない状況です。もし休業をしたとしても、それでお店がなくなって、社員やアルバイトの子たちが帰る場所がなくなってしまうのはきついかなと思います。おそらく倒産する店舗もこれからたくさん出てくるのではないでしょうか。


Q:店舗内での感染予防対策を教えてください。

A:アルコール消毒液は店内の至るところに置いてあります。遊技台も空いたらすぐに消毒(アルコールをつけた布巾で清掃)するようにしていますね。マスクをしないで来店されたお客さまには、マスクを差し上げるようにしています。店内POP類にもマスク着用を促すような内容のものにしています。また、台を間引いた営業にしています。1台置きに電源を落とし、お客さまの距離が近づかないようにしています。


Q:近隣店舗や住民の方からクレームなどはありますか。

A:いえ、そういう連絡は今のところいただいておりません。電話一本入っていないですね。


Q:それでは営業を続けていることに対して来店されるお客さまの反応はいかがですか。

A:とりあえず自分が聞いたのは「閉めないでね。行くところがないから」という声ですね。「営業しても大丈夫だよ」とおっしゃる方もいました。ちょっと根拠はなさそうでしたが(笑)また、ウチは混雑するお店ではないので、「ここなら大丈夫だよね」という声もありました。

 

Q:4月より禁煙化になったことで喫煙ブースが「3密」になっていませんか。

A:ウチは店舗内にブースがなく、外にあるので大丈夫でした。逆に店内にブースがあったら危なかったなと思いますね。


Q:ワイドショーでも取り上げられていますが、他県や別の店舗から来る新規のお客さまはいらっしゃいますか。

A:たしかに営業しているお店が少なくなっているので、新規のお客さまは増えました。トイレの場所や精算機の場所も分からないというお客さまを目にするようになりました。他県からというよりは、おそらく近隣の方で他店がお休みなので来られているという人たちではないでしょうか。


Q:それでは平常時と現在の稼働状況比較をお聞かせください。

A:正直、現在は間引きしているため設置台数も違いますし、営業時間も短縮していますので平常時との比較は難しいですね。当店の場合は店舗禁煙化とコロナ問題で3月末から4月頭の稼働が非常に落ち込んだこともあって稼働は多くありません。ただ、4月に入ったばかりの頃と比べると、4月7日に緊急事態宣言が出て、休業に入る店が出始めてからは稼働が2倍から3倍くらい上がっています。


Q:朝、昼、夜で稼働の変化はありますか。またお客さまの年齢層はどんな感じでしょうか。

A:差はあまりないですね。一日中同じくらいの稼働を維持している感じです。比較的若い人が多いのですが、最近になって少しずつ50代〜60代くらいの方も増えてきました。やっぱり閉じこもってストレスがたまってしまったのかもしれません。元々来店されていて自粛していた高齢のお客さまが戻って来たという感じです。


Q:もし、補償などない状況で、休業が強制になった場合にどれぐらいお店は閉めておけますか。

A:経営者ではないので、正確なところは分かりません。個人的な肌感になってしまいますが、おそらく2カ月は持たないのではないかと思います。ただ、もし補償もなく休業が強制になった場合は、その時点で経営者が「やめる」という判断を下すのではないでしょうか。正直、うちのような小規模店舗は休業してそのまま閉店・倒産というケースが多いと思います。もし、店舗が持ちビルだったりしたら別業種(ドラッグストアなど)に貸した方がよっぽど儲かるという判断も出てくると思います。

 

Q:休業できるのは余力があるからと言えそうですね。

A:確かに休業でも体力のある大手さんは休めると思います。ただ、一部の大手さんでは取引銀行がホール営業しないように働きかけたというケースもあるみたいです。コロナが出て長期間営業できなくなるのはまずいという判断らしいですけど。休業しているホールさんの中には、アルバイトの人たちの給料を8割補償とか6割補償とかしているお店もあるらしいです。もちろん、辞めてもらったという話も少なくありません。


Q:最後に、政府や都道府県、組合、報道などに対して業界人として不満に思っていることをお聞かせください

A:組合とか特に何もしてくれないじゃないですか。組合に入っている意味が薄い気がしますよね。国とか自治体はしょうがないんじゃないですかね。ウチの業界は好かれていないと思いますので。機械や設備など単価が非常に高いですし、機械を入れた翌月に支払うとかお金の出入りも特殊。現金が底をついてしまって、黒字のまま倒産ってケースもあるくらい特殊な業界です。だから、いくら無利子で融資してくれるといってもやがて返さなきゃいけないものですし、簡単に飛びつく話じゃないと思っています。

補償だって、売り上げを補償してくれるのか、利益を補償してくれるのか、それとも家賃を補償してくれるのか。いずれにせよ、今公表されている補償だけではお店は存続できないです。

報道は大変な状況を知らせてくれるのは分かるんですが、パチンコ業界は叩きやすい、食いつきが良いからネタにされていると感じます。スポーツジムや居酒屋さんで営業を続けている知り合いもいるのですが、その人たちは「パチンコが叩かれてくれるからこちらは目を向けられなくて助かる」なんて言っています。ウチのお店近くの商店街の人たちなんかは「(パチンコ屋が)営業していたって良いと思うんだけどね」と言ってくれるんですけどね。

正直に言えばお店の営業を続けるのも地獄ですし、閉めるのも地獄だと思っています。苦しい決断で続けていることは分かってもらいたいんですけどね。


今日になって政府は休業に応じない店の店名を公表するとの話も出てきたが、それでも店舗は苦渋の決断で営業を続けている。ウイルス感染拡大を収束させるためには、パチンコホールも含めて、不要不急に分類される業種は率先して休業するべきなのかもしれない。しかし、一部の中小ホール企業は、倒産や廃業を避けるために、感染リスクを承知で営業を続けるしかないのが現状だ。休業してもパチンコホールが存続できる補償はできるのだろうか。今後の業界動向に注目していきたい。

新型コロナウイルス, 緊急事態宣言, 休業要請