来店イベントはムダじゃない! 「推し活」がホールを変える

2026.08.03 / その他

声優やタレント、来店演者・ライターを招いたイベントは、人選次第でホールに圧倒的な集客をもたらす。SNSでバズり、出演者目当てに足を運ぶノンユーザーも少なくない。だが、会いに来て、満足して、遊技せずに帰る人もまた多い。人を呼ぶことと、打ってもらうことの間には、大きな隔たりがあるからだ。マルハンメガシティ横浜町田で『東京リベンジャーズ』の声優来店イベントを企画した株式会社Ready Beatle代表取締役・西眞一郎氏は言う。「みんな課題が不明確なんです」。来店イベントを"賑やかし"で終わらせないための、その先の可能性を聞いた。


集客できても遊技につながらない壁

セクシー女優や人気声優、お笑い芸人を招いた来店イベントは、人選次第で圧倒的な集客を生み出す。最近では、ピーアーク北綾瀬駅前で実施された瀬戸環奈氏の来店イベントがSNSで大きな話題となった。出演者をきっかけにホールへ足を運んだノンユーザーも多かったという。来店ライターや演者を呼ぶイベントも各地で盛んに行われ、ホールに新たなファンを呼び込むきっかけとして機能している。

だが、その一方で、こんな光景も珍しくない。せっかく数百人が詰めかけても、出演者に会って握手をして、写真を撮って、そのまま帰ってしまう人が少なからずいる。大きな集客力を発揮したにもかかわらず、肝心の遊技にはつながっていない——。せっかく用意したフックを、生かしきれていないのではないか。人を集めることと、遊技につなげることは、なかなか難しい。

そこで今回は、マルハンメガシティ横浜町田で『東京リベンジャーズ』の声優来店イベントを企画した、株式会社Ready Beatle代表取締役の西眞一郎氏に話を聞いた。アニメをフックにノンユーザーをホールへ呼び込み、実際の遊技へと導く施策を手がけてきた人物である。人を呼ぶだけでは終わらない、来店イベントの新たな活用法とは何か。


すべての起点となる「課題の明確化」

来店イベントの価値をどう捉えているか。そう尋ねると、西氏はイベントそのものではなく、「課題設定」へと話を戻した。

「本当に率直に言わせてもらうと、みんな課題が不明確なんですよ。何の課題を解決したいのかが、はっきりしていない」

遊技人口を増やしたいのか。既存客の稼働率を上げたいのか。それとも別の目的があるのか。そこが定まらないまま「とにかく人を呼ぶ」イベントが組まれ、終わってしまう。西氏はこの業界に共通する弱点として、目的設定の曖昧さを挙げる。

「目的があって、その目的のどこにアプローチするためのイベントなのか。そこが完全に不明確なんです」

人を集めるイベントをする前に「How」を明確化して、イベントの企画設計すべきと話す西眞一郎氏。

たとえば集客の中身ひとつとっても、完全な新規客を狙うのか、しばらく来ていないスリープユーザーの掘り起こしなのか、競合店から客を奪いたいのか、あるいは既存客の来店回数を月1回から2回に増やしたいのか——狙う相手によって、打つべき手も、呼ぶべきゲストも、まったく変わってくる。にもかかわらず、その仕分けがなされないまま「200人来た」という来場者数だけを成果として眺めている。それでは、本当に効果があったのかどうかさえ判断できない。


来店と遊技を隔てる「大きな溝」

西氏が繰り返し強調するのが、来店と遊技の間にある「大きな隔たり」だ。氏はパチンコというビジネスの特性を、こんな比喩で説明する。

行ったことのないスーパーマーケットに、好きな有名人が来ているとする。会いに行ったついでに、そこで買い物をして帰るだろうか。食料品なら、まだあり得る。なぜなら「お腹が空いた」というニーズが、買い物という行動と直結しているからだ。

「でもパチンコは、行っただけで『打ってみよう』という動機が一切起こらないんですよ」と西氏は言う。来店してもらったからといって、遊技してもらえるとは限らない。そこには大きな隔たりがある。生活必需品ではない娯楽だからこそ、「来た」と「打った」の間には、容易には越えられない溝が横たわっている。

実際、知名度のあるゲストを呼んでも、賑やかしで終わってしまうケースは多い。店内アナウンスが流れても、来店客の多くは気にも留めずに通り過ぎていく。それなりの出演料を払っていても、だ。「知らない人を呼んで賑やかして、なんとなく効果があったんじゃないか、と思い込んでしまっている」と西氏は手厳しい。

重要なのは、来店から遊技に至るまでのプロセスを、その大きな溝を越えられるところまで設計してあるかどうか。そこを抜きにして人を集めても、意味がない、というのが西氏の一貫した主張である。


アニメと声優という「勝てる土俵」

では、なぜ西氏はアニメや声優という切り口に着目したのか。スポーツでもドラマでも、コンテンツは他にもある。

出発点にあったのは「若者の遊技人口を増やす」という課題だった。そこで西氏は、若い人たちの消費行動を徹底的に見に行った。実際に若者に話を聞いて回り、何にお金と時間を使っているのかを調べ尽くしたという。そこで見えてきたのが、「好きなものにお金を使う」という強い傾向だった。推し活であれ、オタク的な熱量であれ、若い世代ほど「好き」への投資を惜しまない。

これを西氏は、3C分析—顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)の枠組みで整理する。まず顧客、つまり市場を見ると、若者は好きなものに金を使う。次に競合、すなわち他のギャンブル産業を見ると、彼らはアニメ版権を使えない。ところがパチンコは、アニメ版権を使うことができる。ここに、競合が手を出せない独自の領域—いわゆるブルーオーシャンがある。

「これはGoogle Pixelの戦略とまったく一緒なんです」と西氏は例える。Google PixelはiPhoneと正面から勝負せず、AIやカメラ性能という強みに絞って差別化を図った。パチンコにとってのアニメ版権も、それと同じ構造にある、という見立てだ。

「好き」の力は侮れない。アニメを好きな若者にとって、その作品は青春時代を共に過ごした、かけがえのない時間そのものだ。だから、その作品のためなら遠くまで足を運ぶ。その情熱を掛け合わせれば、態度変容を起こせる——西氏はそこに確信を持っている。かつて自分たちがパチンコ好きだった頃、わざわざ遠くの店まで足を運んだ記憶。あの熱量と、何ら変わらないのだという。


「分けて考える」集客の発想

ここで西氏が示すのが、客数(アウト)を伸ばすための顧客の仕分けだ。

まず大きく「新規顧客」と「既存顧客」に分ける。新規顧客はさらに、これまで一度もパチンコをしたことのない「完全新規顧客」と、かつて遊んでいたが離れている「スリープユーザー」に分かれる。一方の既存顧客は、「競合の客をスイッチさせられるか」「リピート率を上げられるか」という二つの問いに整理できる。

アウト(稼働)を伸ばすために来店を仕掛けるのであれば、どんな属性のファンを呼びたいか。根本から考えてゲストを選定。さらにその後の効果測定まですべきと西氏はいう。

この仕分けがなぜ重要か。狙う相手によって、来店イベントの有効性がまるで違ってくるからだ。

たとえば、競合店の客を奪いたい、あるいは既存客の来店頻度を上げたいのであれば、来店イベントは効果を発揮しやすい。人気のパチンコ・パチスロ演者、ライターを呼んでSNSで発信してもらえば、すでにパチンコを打つ層に届き、そこから客を引き寄せられる。

しかし、もっとも難しいのが「完全新規顧客」へのアプローチだ。一度もパチンコをしたことのない人に遊技してもらうには、前述の「大きな溝」を越えてもらわなければならない。お店には来ても、お目当てのゲストに会えれば満足して帰ってしまう。「可愛い、じゃあ帰ろう、で終わってしまう」。ここにこそ、来店イベント最大の壁が横たわっている。


業界からコストを奪う「呼んで終わり」

その壁を越えるために西氏が重視するのが、徹底した効果測定だ。

『東京リベンジャーズ』の声優・林勇氏を招いたイベントでは、来場者にアンケートを取り、「東京リベンジャーズで初めてパチンコをしたか」を数値として把握した。何人が来場し、そのうち何人が初めて遊技したのか。どこでイベントを知ったのか。そこまで追わなければ、施策の良し悪しは判断できない。 

2025年にマルハンメガシティ横浜町田で行われた「東京リベンジャーズ」の声優来店イベント。当日は林勇さんのファンが多数つめかけた。

「例えば瀬戸環奈さんが帰った後に、アンケート会社の人を呼んででも聞いてほしい。初めてこの店に来たのか、初めてパチンコをしたのか、どうやってこのイベントを知ったのか——その2段構え、3段構えで聞かないと、効果があったかどうか、まったく分からないんです」

来場者数だけを眺めて満足していては、次につながらない。「200人集まった」のうち何割が初心者で、なぜ打ってみようと思ったのか。その詳細な分析の積み重ねが、来店イベントを「賑やかし」から「投資」へと変えていく。

もうひとつ、西氏が挙げるのがブランディングの視点だ。効果測定とは別に、「うちはこういう店だ」と認知してもらうために、同じ方向性のイベントを継続する。そうした一貫性が、店の個性として定着していく。いずれにせよ、目的をどこに置くかによって「誰を呼ぶか」というHowが変わり、そこに効果検証を組み込んで積み重ねていく。その設計思想が抜け落ちていると、業界全体として投資効率を下げてしまうことになる。


もっとも高い壁を越える鍵としての 「好き」の熱量

新規ユーザーの獲得には、認知を広げるためのマスマーケティング的な発想も欠かせない。西氏は、あるアニメ版権がパチンコ化された際の「パチンコ台になった認知率」に触れ、市場規模の大きさだけでは説明できない差が生まれることを指摘する。広く知ってもらう取り組みには相応のコストがかかり、1店舗だけで担うには限界がある。だからこそ、メーカーの力を借りる発想が効いてくる、というのが西氏の見立てだ。

ホール単独でできることにも、もちろん意味はある。まず自店の課題を明確にし、どんなファンをパチンコファンにしたいのかを定める。それに応じてゲストを選び、一度きりで終わらせず、効果測定をしながら継続する。そこまで設計して初めて、来店イベントは「ムダ」ではなくなる。そのうえで、メーカーの力を借りてアニメIPの熱量を掛け合わせれば、ノンユーザーの態度変容というもっとも高い壁にも、手が届く可能性が見えてくる。

「好きの力は半端じゃないですから」と西氏は言う。その演出が見たい、その歌を聴きたい、そこでしか味わえない体験がある——アニメを愛する若者の情熱は、確かに人を動かす。あとは、その熱量を遊技という体験へと、いかに丁寧につないでいくか。手法だけを切り取って飛びついても、うまくはいかない。自分たちが何を売っているのかを理解し、世の中の人々が何に心を動かされているのかを見つめ、その両方を踏まえて設計する。

「この業界は、まだまだマーケティングという概念が浸透していない。だからこそ、伸びしろはものすごくあると思います」

来店イベントは、人を集める施策ではなく、人をファンへ変える設計でもある。その第一歩は、自店の課題を知ることなのかもしれない。

取材協力

アニメの力でパチンコ業界を変革する。株式会社Ready Beatle代表・西 眞一郎氏。マルハンでの実務経験を武器に、IPタイアップで若年層を呼び込む戦略を仕掛ける。

 

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