マルハン浜松中央店、オープン前密着ルポ〜店長MJのオープン前奮闘記〜
2025.04.14 / ホール店長MJが目指すのは
自分がワクワクできる店
2024年12月最終週。東京から新幹線に乗り静岡駅で降りた。
年末の慌ただしさが街の空気にもにじむこの日、PiDEA編集部コガワはマルハンメガシティ静岡を訪れていた。目的は、PiDEA誌の特集企画「PiDEAWARD」の取材で、静岡中西部エリアを統括するエリア長・ヤマダさんに話を聞くためだった。
取材が終わると、ヤマダさんが「ちょうどいいところに来た」と言わんばかりに紹介してくれた人物がいた。年齢は40代半ば、端正な顔立ちで、どこか凛とした空気をまとっている。名刺をもらうと、松本さんという苗字で、店舗名はないが店長という肩書きが書かれていた。

「そのうち取材したくなると思いますよ」とヤマダさんが笑っていた。
今でこそ、この春にグランドオープンする予定のマルハン浜松中央店の店長であることが分かるが、この時点ではマルハンがジャンボ1088をM&Aにより承継したニュースを把握していなかった。店名も場所も分からない。ただ、このタイミングで紹介されるということは、何か大きな動きが始まっているに違いない――そう直感した。

設置台数926台の「MEGA JUMBO 1088菅原店」をマルハン東日本CがM&Aにより事業継承。1000台超へ増床し、グランドオープンする。近隣には楽園、コンコルド、ABCなど県内の旗艦店が集結する重要なエリアだ。
実はこの松本なる店長は、2024年12月までマルハン鶴見店で店長を任されていた人物であり、当時SNS上では「こども店長(@maruhanmj)」という名前で知られていた(3月21日に店長MJと改名)。会話の端々から、店長MJという人物がただ者ではないことはすぐに分かった。
彼が直近まで店長を務めていたのは、神奈川県内でも有数の繁華街にある大型店舗・鶴見店。およそ2年10カ月の在任中に、同店を東日本カンパニーの中でも売上は五指に入る店へと押し上げた。
特筆すべきは店長MJの「稼働させる力」だ。彼が目指す店づくりの根本は、「自分が行きたいと思える店」だと言う。自分が行きたい店とはどのようなものなのか。
「シンプルに自分がワクワクできる店です。どんな出し方をするんだろう、どこに設定を入れてくるんだろう。前日から何を打とうか迷いながらもその時間も楽しめて、毎日でも行きたくなるような店にしたいですね。どうしても予算があるし、パチンコホールというのはお客さまから利益をいただくことが前提にあるけど、時にはそれを端っこに置いて店長の裁量で好きなことをやる時もあります。どこまでユーザー目線でお店づくりをするかというのが重要で、流行らせちゃったら勝ち。会社から言われることとお客さまからのニーズの間で立ち回るタイプの店長だと思います」(店長MJ)
責任感と自我が強いタイプで、時には上司の言うことを無視する胆力も持ち合わせている。
「ヤマダさんから『こうして』と言われても、『ハイ』と言いながら2回くらいスルーするかもしれません(笑)。なぜなら最終的な責任は店長にあるので。店を任されている以上、譲れる範囲と譲れない範囲があります。結果が出たら何も言われないですし、勝てば官軍です」
実はこの店長MJ、鶴見を任される前は静岡県の村松店や函南店、メガシティ静岡などの旗艦店で勤めてきた経歴があり、市場内にどういう法人があって、どこが旗艦店なのかなど、静岡の市場はほとんど理解している。「今回任されるお店は、立ち位置としてはチャレンジャーだと思っています。そこに指名された責任は大きいですし、全力でぶつかっていきますよ」と意気込んでいる。

2024年12月まで神奈川県のマルハン鶴見店で店長を務めていた。マルハン鶴見店は東日本Cの中でも5本の指に入る売上上位店舗。X上の名前はこの3月に「こども店長」から「店長MJ」へと改名したシゴデキ店長だ。Xアカウント(@maruhanmj)
どれも法人の看板を背負っている店舗が
集結するエリアに本気で入っていく
2025年2月14日。2度目の取材で再び浜松の地を訪れたPiDEA編集部コガワは、工事中のホールへと足を踏み入れた。かつて「ジャンボ」と呼ばれていたその建物は、すでに面影を失いつつあり、足場と仮囲いに包まれて、別の何かへと生まれ変わろうとしていた。
「すみません、ちょっとバタバタしてまして」
店長MJが笑顔を見せながら、こちらに駆け寄ってきた。前回会ったときと違い、顔にはうっすら疲れが見える。その理由はすぐに分かった。ホール内はまさに工事の真っ最中。薄暗いホールの中にびっしりと組まれた足場、忙しなく作業を続ける作業員と、機材の音が響いていた。

「全部が一気に動いてるんですよ。島も壊して、カウンターも作り直してて。とにかくゼロから作ってるって感じです」
店長MJがそう話しながらホールを見せ、次に案内してくれたのは、バックヤードだった。そこにはまだ人気はなく、10畳ほどの部屋にテーブルと椅子だけが用意された応接室といった感じだ。というのも、この時点で現場にいるのは店長MJとマネージャーだけ。ホールの魂とも言えるスタッフたちは、3月から本格的に集まってくる予定だという。
「とにかく今は、面接を回して、新しい仲間を1人でも多く集めている段階です。ジャンボさまで働いていたスタッフもも残ってくれることになっていて、近隣のマルハン店舗で慣れてもらってから合流します。チーム作りは急務ですね。そこが一番難しい」
慌ただしい中でも、MJは常に先を見ていた。どのような島構成にするか、どこまで設置台数を伸ばすか。限られた敷地の中で最大限の収益性を引き出すため、設置台数とデザイン性の両面を考慮しながら判断をしたという。以前の屋号「MEGA JUMBO1088」では、PS合計926台のホールであった。そこを1000台に到達させることを念頭に開発が進められていた。
「島を湾曲させると、それだけで台数が減ってしまう。本当は見た目もこだわりたいんだけど、設置台数との兼ね合いで、今回は台数もある程度確保できるよう島構成を選びました」
その取材をしていると、途中で店長MJのスマートフォンが鳴った。彼は一瞬画面を見て、「ちょっとすみません」と言って席を外す。10分くらいは話し続けていた。

電話の相手はエリア長のヤマダさんだった。10分ほどして戻ってきたMJは、少し困ったような笑みを浮かべていた。
「LEDビジョンを設置するのですが、本社からの案を見せたら、部長から『どのような運用方法をするのか具体的に聞かせて欲しい』と返答がありまして……。お金を掛ければそれだけ派手にはできますがそのビジョンを使って何をどう伝えたいのかということですね」
ホールの顔ともなる大型ビジョンの設置位置は、集客にもブランディングにも関わる大事なポイントだ。本社からは新しいことへのチャレンジとして提案があったのだが、最終的に現場サイドがどう表現したいかも重要だ。予算も無限ではなく、ビジュアル的なこだわりと費用対効果の綱引きが続いていた。
「結局、どこまでがやれることで、どこからが理想なのかを整理しないといけません。でも、やっぱり自分の意思はちゃんと出さなきゃいけないんですよ」
そう言って頭をかきながら手元のノートPCへと目線を落とすMJであったが、表情はこの状況を楽しんですらいそうに見えた。
また、これからの営業において重要な役割を持つSNSについても、葛藤はある。
「アカウント名を浜松中央店に変えるタイミングも考え中なんです。早すぎても盛り上がらないし、遅すぎてもお客さまに伝わらない。写真で工事の進捗を見せたり、ビフォーアフターを伝える形にしたいけど、一回出したらそれで終わっちゃうような投稿にはしたくないので、ちゃんと継続できるように今、マネージャーと計画しているところです」
情報を出すタイミング、スタッフのモチベーション、競合の動き、そして自分の理想。すべてを同時にマネジメントしなければならない開店前の店長は、想像以上に孤独な立場だ。
「とにかく今は、決めるべきことが無数にあります。でも、楽しいですよ。グランドオープンって、やっぱり特別ですから。あと浜松って、本当に強い店舗ばかりなんですよ。コンコルドさんにABCさん、楽園さん。法人の看板を背負っている店舗が集まっている。でも、そこにマルハンが本気で入っていく。それで浜松の市場全体の活性化につなげたいですね」
MJ店長は、神奈川・鶴見での経験を語ってくれたときと同じトーンで、静かに、しかし自信をもってそう言った。
「パチスロが動く店。ちゃんと設定が入ってると想像できる店。SNSのポストを見て、明日行こうかなって思ってもらえるような店。そういう、行きたくなる理由をつくることに、僕は全力を尽くしたいんです」
まだ何もない場所で語られるこれからの風景は、言葉としてはまだ仮説のようなものかもしれない。でも、その想像力と情熱の密度は、すでにでき上がった店舗のそれと何ら変わらない。
「1人じゃできない。でも、1人で始める」

店長MJの背中には、誰もいないホールに灯りをともすような、確かな決意。取材の終わり際、MJはそう言って苦笑いを見せた。新しいマルハンができるその場所は、まだコンクリートの埃と金属の音に包まれていたが、彼の頭の中にはすでに「お客さまが毎日通いたくなる店」のビジョンが、確かに形になり始めていた。