旧規則機の撤去、新型コロナウイルス、3度目の緊急事態宣言。かつてない逆風が吹き荒れる中で、「今が潮時」とホール経営から退く決断をするオーナーが増えている。店舗を手放す者があれば、それを買収・継承する者もある。
大手が中小零細ホールを買収するのはこれまでもよくあるケースだが、ここ最近では大手が大手を、中小の成長企業が大手の複数店舗を買収したり、全株式を買い上げたりするケースも増えてきた。最新のM&Aによるホール企業再編の動きを追った。
2021年4月、首都圏を中心に25店舗を展開する東京プラザグループの代表取締役会長兼社長が徐東湖氏から山本勝也氏に交代した。山本氏はビッグアップルやケイズプラザなどの屋号で長崎県を中心に神奈川や東京などに17店舗を展開するオークラホールディングス(以下略オークラ)の代表者でもある。
17店舗のオークラと25店舗のパラッツオ。売上高も前者は330億円(2019年6月決算)、後者は490億円(2020年3月決算)でオークラが自社の規模を上回る企業を買収した形だ。そして、この2社の売上を単純に足し合わせると820億円になり直近の売り上げランキングでは20位前後と、大きくランクアップする。 オークラの関係者に話を聞いた。
「今回の買収に関しては代表の山本個人がパラッツオの株式を取得したもので、会社(オークラ)としては直接の関係がありません。ですから弊社からは特に公表できるような情報がないのです」
オークラは2017年5月、香港証券取引所メインボードに上場、今回の買収によりグループ化となれば株価にも影響する案件であり、IR情報を公開する義務がある。それゆえ慎重に事が進められている様子がうかがえる。
パチンコ物件ドットコムを運営するとともに、パチンコ店の新規出店や店舗売却のサポートを行うシーズンの小林哲也代表は「物件によっては『営業権が他社に代わるのはNG』という文言が家主との契約書に盛り込まれているケースもあります。そうしたことへの配慮があるかもしれません」と話す。
いずれにしても代表交代が公になって1カ月以上が経った5月上旬時点でも両社のホームページからは代表取締役と一部の役員の変更以外、店舗名なども含めて以前と変わらず、オークラがパラッツオをグループ化したという状況は見えてこない。
それでも1店舗あたりの平均が700台を超える大型店が中心のパラッツオ25店舗の株式を買収したという事実がある。
前出の小林氏によれば「買収価格は約150億円プラス負債と資産に加え、パラッツオは自社物件もあるが賃貸も多いのでその支払いなども考慮して300億円近くになるのではないか」と推測している。
厳しい経営環境下でホール経営を手放すオーナーや企業もあれば、多額の買収資金で積極的にM&Aを進める企業もある。そうした動きは特にコロナ禍で旧規則機の撤去が進む2020年から21年に顕著になっている。
もう1つ株式の買収・譲渡で春先に大きく注目されたのが、アミューズと悠煇のケースである。直近5年間で売上高を1.6倍に伸ばしている成長企業のアミューズが神奈川県を中心に東京、静岡で9店舗を運営する悠煇の「ドキわくランド」の株式を取得したのだ。
アミューズの岩谷和馬専務がM&Aの内情をこう明かす。「ドキわくランドはアミューズグループの一員として、別会社としての運営になります。社名も変えず、社員もそのまま。経営者だけが変わったということです」
大阪が本拠地のアミューズは元々、関東への出店を考えており、その尖兵として2016年にオープンした千葉店で大きな成功を収めた。今回の統合は関東における同社の勢いに拍車をかけるのか。
「今回の経営統合で千葉店を出店する前から言い続けてきた全国展開への道がようやく実ったなと感じています。買収の決め手は9店舗の稼働がすごくよかったこと。加えて立地もよく、何より店内の雰囲気や接客を見て優秀な人材が多いと感じました。ベテラン社員の方も多く、とても刺激になり、M&A史上で一番うまくいった経営統合だという手応えがあります。アミューズといえばハード面や出店のイメージが先行してきましたが、ドキわくランドは基本をしっかり押さえていて、サービス業としてのホスピタリティーが非常に高いという印象です。それはある意味アミューズが改善すべき部分で、逆にドキわくランドが弱みとしている部分がアミューズの強みでもあります。話をしていても新しい考え方やアイデアなどに触れて非常に有意義ですし、組織を強くして次につなげるには必要な統合だったと思います」(岩谷専務)
売買に当たっては「金額の多寡よりも社員を大切に引き継いでくれて、かつ経営理念に共感し実行してもらえるオーナーに」という悠煇の前オーナーの意向が最優先にあったという。その意向にかなったアミューズに関して「前オーナーが弊社のプラスイメージを全社員に発信して頂いていたので、経営統合後、引き受けた社員に不安は少なく、期待とモチベーションを持ってくれていた」と話す。
そんなアミューズは昨年11月には兵庫のパチンコジャンボ、12月には同じく兵庫のイルサローネ三田をM&Aしており、今年4月アミューズ西宮山手幹線通り、アミューズ三田としてそれぞれオープンしている。
買収の決め手について「西宮は条例が厳しく、なかなかパチンコ店が新規参入できない場所で、1からの新規出店はここ最近なかったので、M&Aという形が理想的でした。商圏人口は非常に多いですし、客層的にも本来パチンコファンが多いイメージがありました。また、駅から近くて駐車場もそろっている。賃貸物件なので買収価格が安いという印象はありませんでしたが、伸びしろがある店舗で競合が出店しにくいエリアであることは魅力でした」(岩谷専務)
一方、三田店に関しては、「強い法人から引き継ぐ物件ということで買収に怖さもあった」として、こう話す。
「この場所もパチンコ店の出店が少なかったことと、人口に対する遊技参加率の高さは感じていました。物件に関しては、コロナ禍の夏ごろに見に行った際、地元の常連の方もしっかりついて稼働もありました。さらに近隣競合店が非常に強かったんです。ただ、台数を増やせる余地があり、店舗の今後の努力次第では我々もチャンスはあるのではと可能性を感じました」
兵庫県の2店舗はいずれも賃貸物件ではあったが、条件面も出店判断材料の一つになった。そして、最後に岩谷専務はこう付け加えた。
「特別M&Aに力を入れていたわけではありませんでしたが、コロナショックで先行きを不安視したり、経営方針で守りを優先する法人様と、今後を見据えて出店をしていきたい弊社のスタンスがうまくハマりました。大手法人がスピーディーに出店しづらい今、自分たちはスピーディーにいこうと。コロナ禍は将来へのチャンスと信じていますし、マーケティングも長い年月を掛けてノウハウを築いてきましたから」
約1年間で11店舗を上乗せしたアミューズ。前出のオークラ同様、売上800億円を超えてランキング20位前後まで一気に駆け上がった。
「売る側も買う側も今が絶好のタイミングです」と語るのは前出の小林氏だ。コロナ禍で増えている不採算店を手放したい、あるいは株式や事業を譲渡したいという売り手側からすれば、旧規則機のタイムリミットギリギリまで使って手放したいところ。しかし、買い手側に立てば、店舗のM&A直後に大量入替するとなれば莫大な費用がかかる。新規則機にある程度入れ替わっていて、残った旧規則機を使いながら段階的に入れ替えができる今夏前後のタイミングが成約しやすいという。売りたくても買い手がつかず、新規則機に入れ替えて店を続ける資金力も気力もなければ店を閉めるしかない。
そうした売り物件の中でも賃貸は苦戦しているようだ。「多くの方がパチンコ業界が元気だった10年〜20年前に出店していますので、いい場所を押さえるためにかなり高い賃料を払っています。他業種に比べてもパチンコ店の賃料は高かったので、いい場所も押さえられました。しかし、ある日を境にじわじわと業績が落ち、気がついたら家賃が重荷という状況になっています。ホールさんの多くは減額交渉をしていますが、なかなか交渉に応じてくれないとか、減額してもまだ高いといったケースもあります」
都心の駅前一等地にあったあるパチンコ店の場合、高額な家賃がネックになって買い手がつかず、そのまま閉店したものの、定期借款のため10年間解約ができない契約になっている。そのため月額2000万円を超える家賃を払い続けているという。
また、M&A事情はコロナ前と以降に大きく分かれるようだ。「コロナ後は一般的に売上が2〜3割落ちています。また、商圏も大きく変わり、駅前は非常に厳しくなりました。その意味でコロナ前に積極的にM&Aを進めていたキコーナやガーデン、デルパラなどは買値を含め売上計画が大きく狂ってきているのではないでしょうか」(小林氏)
一方、前出のオークラやアミューズのように「コロナ後のM&Aはそれを見越した値段設定のため、比較的に計画通り進んでいくのではないか」とも。
コロナ禍にあっても活発な動きを見せるM&A。その中でも注目されるのは、売上高・店舗数ともに業界3位に位置する大手のガイアの動向だ。企業の旗艦店となり得る大型店や高稼動店を次々と売却している。巷では、資金繰りのために金融機関に返済計画のリスケを依頼しつつ、看板店などを売却して返済に充てていると言われ、ガイア危機説も流れている。一方で、ゼロから繁盛店を作り上げ高額で売却するビジネスモデルとの見方も。
いずれにしても現状の経営環境下では、大手が繁盛店を切り売りしたり、中小が多店舗を売却・買収したりというケースは今後ますます増えていきそうだ。その過程で店舗数と企業数の減少も拍車がかかるだろう。