2014.05.07/カジノ
【寄稿】トレカ市場に客を奪われているパチンコ業界。
2026.10.22 / その他 弊社がオフィスを構える東京・秋葉原で開店前の行列といえば、昔からアイランド秋葉原をはじめとするパチンコホールが有名だ。
ところがここ数年、その行列をしのぐ勢いで成長し、客を並ばせているのがトレーディングカード(トレカ)を扱うカードショップである。その列は年々長くなっている。
この二つの列に並ぶ客は、どちらも偶然性を目当てにしている。
カードショップになぜ偶然性があるのか、と思われるかもしれない。だがトレカは、もともと開けるまで中身の分からないパックで売られる商品だ。いまの店頭には、その偶然性の幅を売り手が大きく広げた商品が並んでいる。オリパである。
オリパはオリジナルパックの略だ。元はカードショップが、売れ残った安価なカードに少量の高額カードを混ぜ、福袋的に売り出した商品を指した。権利元が中身を決める公式パックと違い、組み合わせも当たりの本数も店が決める。その収益性の高さから、今はこれを専業にするネット業者が多数ある。業者はトレカ人気の高まりとともに、当たりと外れの幅をより大きくし射幸性を高めた商品を出している。
こうしたネット業者のオリパでは、購入から抽選・結果の確認までをスマホの中で行う。
例えば、業界No.1をうたう株式会社sinsaの「DOPA!」は、2026年9月時点で累計ユーザー150万人を公表している。購入後は画面上で抽選結果が表示され、当たりのランクによって演出が変わる仕組みになっている。演出で当たりへの期待感を高める点は、パチンコの液晶演出と同じだ。中には、市場で約245万円の値がつく最高級の鑑定済みカードを、目玉の当たりとして掲げるサイトもある。
引いたカードは、郵送で実物を受け取ることができる。一方、不要なカードはサイト内のポイントに換えられ、そのポイントは現金に戻すことなく、次のオリパ購入に使うことができる。パチンコでいえば、出た玉を景品に換えず、そのまま台に戻す再投入である。
郵送で受け取ったカードは街のカードショップに売れば、現金になる。払い出しは物品、換金は第三者による買取という組み合わせは、パチンコの三店方式の形に類似している。
実は私自身、国内でいち早くこの問題に警鐘を鳴らした人間のひとりである。2020年にYahoo!ニュース掲載のコラムで、この売り方を「オリパ賭博」と書いた。
販売価格を下回る価値のカードを引いた人の差額が、別の人の高額カードの原資になる。同じ売り場に損をする人と得をする人がいて、店の利益はその差額の中から抜かれる。引いたカードを、オリパの販売店とは関係のない第三者が買い取るとするのならば、あとは刑法が賭博罪の例外とする「一時の娯楽に供する物」にあたるかどうかの判断だ。その微妙な判断に警察が手をこまねいている間に、あっという間に市場が拡大した。
私が最初の警告を発して6年余りが過ぎた2026年9月、オリパの販売をめぐって、ようやく二つの法的な動きが起きた。一つは行政への申告である。
9月7日、弁護士法人「響」が大手5業者について、特定商取引法違反の疑いで消費者庁に調査を申告した。同法人によれば、その時点の相談は約460人、被害総額は約31億円である。
もう一つは民事裁判である。17日、購入者38人が販売サイト5社を東京地裁に提訴し、計約2億7000万円の損害賠償を求めた。原告の弁護団は、同様の相談が2000人を超え、購入総額は約82億円に上ると説明している。しかし、どちらも切り口は「賭博罪」ではない。問われたのは、当たりやすさの表示である。
報道によれば、訴状などでは5社が「2分の1の確率」で希少カードが出ると宣伝していたとされる。還元率100%近くを掲げるサイトもある。原告弁護団の西川研一弁護士は、還元率は購入額に対する商品総額を示すが、その商品の市場価値を判断しているのは業者自身だと指摘する。
業者は数字を都合よく置けるのに、買った人には損得を確かめる手段がない。これに対し業者側は、サイトの表示どおりにカードを封入していると反論している。申告がどう扱われ、判決がどちらに出るにせよ、問われるのはこれらの数字が正しいかどうかであり、現状においては射幸性の高い商品を売ること自体は問われていない。
しかし、本件の本丸は「射幸性」そのものだ。「2分の1の確率で希少カードが出る」「還元率100%近く」という文言は、正しいかどうか以前に、それ自体が射幸心に訴える宣伝である。客はこの文言を見てカードが欲しくなるのではない。得をしそうだと思って買うのである。
訴状で問題にされた5社に限った話ではない。販売サイトとその紹介記事を見れば、同じ売り方が業界全体に広がっていることが分かる。商品ページには1回100円前後のものから10万円を超えるものまでが並び、TOP賞・2等・3等と賞が階層で示され、売り切れる最後の1回を引いた人には「ラストワン賞」がつく。紹介サイトは各社を「還元率」で順位づけし、払った額よりはるかに高いカードが出ることを「爆アド」と呼んで、少額購入で数万円のカードを引いた実例を並べる。「課金して検証したら還元率147%でアドが取れた」と見出しを打つ記事もある。売る側も買う側も、カードの絵柄や遊び方ではなく、払った額が何倍になって返ってくるかで商品を語っている。
しかも、その射幸性には歯止めがない。スマホの販売には入口で年齢を確かめる画面はなく、払い出されるカードに価格の上限もない。約245万円のカードも、第三者のショップに売れば事実上の換金になる。被害はすでに表に出始めている。オリパ購入のために、借金を抱える若者の報道も出ている。
オリパに欠けているこの歯止めを、パチンコは長年、営業の条件として背負ってきた。
18歳未満の入店は禁じられ、賞品は1つあたり9,600円(税抜)が上限で、時間当たりの投入金額にも上限がある。出玉の性能や広告の表現も縛られ、ギャンブル等依存症対策基本法による要請で、本人や家族の申告で遊技を制限する仕組みや、ホールへの相談役の配置といった依存対策を進めてきた。
その間に、払った額が何倍にもなって返ってくる楽しみを求める客は、歯止めのないオリパへと流れていった。パチンコ業界がトレカ市場に奪われているのは、カードを集めて遊ぶ客ではなく、この射幸性を求める客である。
それでも、明るい材料はある。今年7月、自民党にトレーディングカード振興議員連盟が発足した。会長の木原誠二元官房副長官は、トレカ業界に内在する偽造品や転売、マネーロンダリングの問題を挙げた上で、「健全で世代を越えて楽しめる市場に育成することが重要だ」と述べている。
オリパはまだ議題に上がっていないが、業界と政治が市場のルールを話し合う場はできた。トレカ業界は、オリパの購入額の上限や年齢確認、確率と還元率の分かりやすい表示といった自主ルールを、この場に示すことができる。
パチンコが依存対策を進めてきたのも、射幸性を扱う商売として社会に認められ続けるためだった。外から規制を課される前に、自分たちのルールを示せるか。オリパが健全な産業として残れるかどうかの分かれ目は、そこにある。土台は、すでに整い始めている。
秋葉原に年々伸びるカードショップの列を、健全な市場の証しにできるか、次の規制の予兆にしてしまうか。それを決めるのは、トレカ業界自身である。
Profile/木曽崇(きそ・たかし) ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査部内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長に就任。専門は夜遊び、ギャンブル、観光など。代表著「日本版カジノのすべて」(日本実業出版)、「夜遊びの経済学」(光文社)ほか。
Profile/木曽崇(きそ・たかし) ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査部内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長に就任。専門は夜遊び、ギャンブル、観光など。代表著「日本版カジノのすべて」(日本実業出版)、「夜遊びの経済学」(光文社)ほか。
LINE





