照準のずれた3番手の目標が2番手を刺激して逆効果になった話(林秀樹)

2019.11.01 / 連載

【金曜】ド底辺ホール復活プロジェクト
コンサルティングの現場より(237) 戦略のセオリー

 

 

皆さん、こんにちは。アミューズメントビジネスコンサルティング株式会社の林です。11月に入りました。毎年のことですがこの時期は本当に厳しいと感じます。この流れは少なくとも1と一か月は続くでしょう。忍耐の時期だと思います。

そういった厳しい外部環境にあっても店長(責任者)としては業績の維持、向上を目指していると思います。今回は内部要因、つまり「自分たちでできること」で業績の向上を図るために「競争の戦略のセオリー」についてお伝えします。

 

あるお店のお話です。この店舗は商圏内5店舗中3番手の稼働でしたが、上位2店舗とはずいぶんと差をつけられていました。

・上位との客数の差を縮める

が、この店舗の当面の目標です。この目標達成の近道は

・自店の存在感を出して埋没しないようにし、少しでも上位店舗からお客様を取り込むこと

と考え、次のような施策を重点的に実施していました。

・上位店舗で稼働が良い機種、コーナーを狙って、同じ機種、コーナーに注力してお客様を取り込む。

→該当機種にはファンが多いから稼働がよいので、取り込めれば「自店が増えて他店が下がり、且つファンが多いので底堅い稼働になる」、一石三鳥と考えた。

・上位店舗の入替など自店の稼働が落ち込みそうな日には必ず対抗策を打つ。

→「上位店舗のお客様に自店を選んでいただくキッカケになる」、と考えた。

 

ところが、これらの施策を繰り返しても稼働は思ったほどに伸びず、逆に上位店舗との差が広がる事態になり、営業計画にも無理が生じるようになってしまいました。

 

ここで、「これではいけない」とまずは目標の修正を図りました。そして「上位との差を縮める」という目標ではなく、「(他店からの新規客を当てにせず)自店の稼働数を上げる」というように目標を修正しました。またサブ的な目標として「相手と正面からやりあわない」とも規定しました。

・上位店舗のお客様を奪うのは困難なので、自店のお客様の来店回数や滞在時間を増やす戦略、施策を考えよう

→声かけ、笑顔、役職者のホール巡回とあいさつ回りなど常連に目を向けた

・上位店舗の得意分野の切り崩しを狙うのではなく、上位店舗の不得手な分野で対抗する戦略、戦術を考えよう

→上位店舗は若いお客様が多くスロット(特にART)が強いので、年配層中心のAタイプのスロットに目を向けた

 

このように目標を修正し、それにあった戦術を実施した結果、上位店舗の稼働に変化はないものの徐々にではありますが自店の稼働が上がっていきました。さらに、上位店舗からお客様を取り込むよりは遅いペースですが、結果的に当初掲げていた目標=「上位店舗との差を縮める」も達成しつつある状況になったのです。

 

実は、修正後の目標とそれにあった戦略、戦術は競争戦略での定石と言えるものでした。競争戦略では「してはならないこと」と「すべきこと」が次のように言われています。

・してはならないこと

相手と正面からぶつかること、相手を刺激することはしてはならない。お互いに無駄な体力(資本)を消耗して疲弊するからである。

・すべきこと

相手の地位を下げないで自分たちの地位を上げるようにすべきである。相手の業績に影響を与えるから(相手にとって重要なことの邪魔をするから)、相手はこちらに反撃を仕掛けてくることになるのである。相手の地位が落ちなければ、こちらの動きにいちいち反応してこなくなる。

 

今回の店舗は、当初はこの「してはならないこと」に力を入れていたことになります。この場合、相手の嫌がることをすればするほど相手がこちらに目を向けることになり、逆にこちらに対して攻撃を仕掛けてきます。そうなると最終的には資本力に勝るほうが勝つので、今回の例でも結局太刀打ちできなくなってしまいました。

逆に「すべきこと」に力を入れた結果、相手はこちらに注意を向けることはなく、自店に攻撃を仕掛けることはありませんでした。

 

今回の例で当初掲げていた目標とその目標達成のための施策は、一見すると正しく、効果的に映ります。しかし定石に沿っていないので結果が得られませんでした。

戦略には「定石、セオリー、基本」と呼ばれるものが数多くあります。必ずしもそのとおりとはいえませんが、できる限り定石に沿って行動したほうが、効率的に戦えるものです。

 

 

 

 

 

 

 

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アミューズメントビジネスコンサルティング株式会社 代表取締役 林秀樹
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1972年生まれ、福井県出身。大学卒業後、遊技機販売商社勤務を経てパチンコホール企業へ。エリア統括部長、遊技機調整技術部長などを歴任したのち、株式会社エンタテインメントビジネス総合研究所入社。2012年、40歳となったことを機に起業。細やかな調整技術と正確な計数管理力で、勘や経験に頼らない論理的なホール経営を提唱する。著書に「ジリ貧パチンコホール 復活プロジェクト」(幻冬舎)がある。

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