林秀樹「グループシンク、集団意思決定の落とし穴」

2017.03.25 / 連載

【日曜】ド底辺ホール復活プロジェクト
コンサルティングの現場より(102) 「全員一致」の危険性

皆さん、こんにちは。アミューズメントビジネスコンサルティング株式会社の林です。いよいよ年度末が近づいてきました。その今年度は特に遊技機について動きがあった年で、大きなこととしてはMAX機の撤去、遊技機メンテナンスへの指導などがありました。その結果現在どうなっているかというと、
・玉単価の低下
・諸元表の再確認により旧要件機種でベース値を高く運用
などの影響が出ています。上記2つのことは当然ながら売上の低下を招くことになりますが、会社(店舗)の経営において「入り」すなわち売上が減少しても「出」、すなわち毎月の支払い(費用)は変わらないものです(変わらないどころか逆に機械代の高騰もあり増えていると感じる方もいるでしょう)。

一般に状況が右肩上がりの時は前例踏襲が良いとされ、逆に状況が不透明な時代には前例打破による価値観の破壊が良いとされています。私もこれまで、いろいろなセミナーやこの連載において常に「現在は混沌としているのだから、変化を志向してほしい」と言い続けてきました。しかし、あまりにも飛躍した発想からの変化、変革は危険も伴います。

あるお店のお話です。

このお店もここ最近の外部環境から売上の低下が顕著でした。

「今のままではダメだ、変えなければ。」

店長以下全員が「変化しよう」という方向性で一致し、「現状を打破する新しい発想」を全員で考えてみることになりました。そのためにまずは現状の問題点を挙げたところ、全員の意見は下記のような問題点で一致となりました。

<現状の問題点>
・利益率が高くなってしまっていること
・利益率を高めても利益額が追いつかないこと
・機械代を抑えていることで店舗全体の遊技機鮮度が低いこと
・広告宣伝を抑えていることで集客ができていないこと
・販促費を抑えているので雰囲気の盛り上がりが少ないこと
などなどです。

そしてこれらすべての根本の問題は、
・売上が低いこと
と帰結しました。

問題点が一つに絞られたことで次は「この問題点を解決するために何をするか」を考えることになります。

解決策の結論としては、「売上を上げるためには高貸玉を増やしたほうが良い、つまり4円パチンコを導入しよう」です。上記問題点は売上アップさえできれば解消できることばかりということで、全員一致でこの施策が正しい、となりました。

以上のような議論を経て、年末のMAX機の撤去というタイミングで4円パチンコ導入のリニューアルをすることになりました。「全員一致で企画して進めるリニューアル、方向性は皆同じ」ということで全員気合が入り、入替も広告宣伝も、販促も素晴らしい統一感で進めることができました。しかし残念ながらリニューアル後の数字は芳しいものではなくリニューアル前と大して変わらないものだったのです。むしろ低貸玉を減らして4円パチンコの導入だったので、稼働(客数)は大きく減らす結果となりました。

今回失敗してしまった要因は2つあり、まず「問題点の出発点がお店視点であったこと」が挙げられます。これは過去にも何度かお伝えしている通り「プロダクトアウトではなくマーケットインで」という考え方ができていませんでした。「4円パチンコは果たしてお客様が望んでいることなのか?」という視点の欠如です。現状で4円パチンコの増台という施策は、よほどのことをしない限り難しい時代でしょう。

しかし今回失敗した要因はもう一つあり、むしろこのことが失敗の本質であったと考えられます。それは「全員が一致していた」ということでした。
「全員が一致なら皆が同じ報告を向いていて、一番力を発揮するのではないか」
と考える方もいるでしょう。確かにその通りなのですが、それだけではいけないのです。

「グループシンク」という言葉があります。日本語では「集団浅慮」と訳されており1972年に社会心理学者のアーヴィング・ジャニスが提唱した概念です。これは端的にいうと、
・全員一致の決定が大きな間違いにつながる
ということを示している概念です。
・個人で考えればわかることなのに、集団の意思決定になると間違いに気づかなくなる。
・所属している集団の凝集性(所属している一員としての動機づけの度合い)が高まっていくと全体の意見への同調圧力が強くなり、結果として「みんながいうのだから、大丈夫だろう」と「浅はかに」考えてしまう。
などの問題点が指摘されました。

今回の4円パチンコ導入という意思決定、個人で考えれば「それはないのではないだろうか」と簡単に気づくと思います。もちろん気づいていた人がいたかもしれませんが、結果的にそういった意見(考え)が表に出ることはなく、「大丈夫だ!」と思い込んで突き進んでしまったのではないか、と思います。

グループシンクは非常に危険な現象です。そうならないためにも、議論は必ず中立的な意見、批判的な意見(※否定ではなく、建設的批判)も考慮して進めるようにしてください。


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アミューズメントビジネスコンサルティング株式会社 代表取締役 林秀樹
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1972年生まれ、福井県出身。大学卒業後、遊技機販売商社勤務を経てパチンコホール企業へ。エリア統括部長、遊技機調整技術部長などを歴任したのち、株式会社エンタテインメントビジネス総合研究所入社。2012年、40歳となったことを機に起業。細やかな調整技術と正確な計数管理力で、勘や経験に頼らない論理的なホール経営を提唱する。

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